【保存版】遺言書(自筆証書遺言)の書き方・種類を徹底解説

  • 遺言書なんて、うちには大した財産がないから関係ない
  • なんだか難しそうで作る気が起きない

そのようにお考えではありませんか?

しかし、遺言書と持っている財産の規模とは関係ありません。あとで詳しく解説しますが、遺言書は残されたご家族が遺産分割で揉めたり、面倒な相続手続きに巻き込まれないためのお守りのようなものなのです。

遺言書にはいくつか種類がありますが、中でも「自筆証書遺言」は費用をかけずにいつでも手軽に作成できる遺言書です。しかし、自筆証書遺言は法律でルールが定められており、ルールに反した書き方をしてしまうと遺言書が無効になってしまうという可能性があります。

そこで本記事では、遺言書の種類やそれぞれのメリット・デメリットを整理した上で、遺言書が無効になることを回避するための自筆証書遺言の正しい書き方と守って欲しいルールをひな形付きで詳しく解説します。

「誰に、どの財産を、どうやって残すか」——あなたの大切なご家族を守るため、まずはこの記事で正しい遺言書の基本をマスターしてみませんか?

目次

遺言書とは?

遺言書とは残された人のためにご自身の意思や想いを書き記した書面です。

法律で決まっている書く内容

この遺言書に書く内容は、あらかじめ法律で決められています。これを法定遺言事項といいます。以下のすべてを書く必要はありません。以下の中から取捨選択することができます。法定遺言事項は遺言書に書くことで何らかの法的効力が発生する事項です。

法定遺言事項内容解説
① 相続に関すること相続分の指定・委託「妻に3分の2、長男に3分の1」など、法定相続分と異なる割合を指定します。
遺産分割方法の指定・委託「自宅は妻に、預金は長男に」など、具体的に誰にどの財産を相続させるか指定します。
遺産分割の禁止配偶者の生活保障など特別な事情がある場合、死後最長5年間にわたり遺産の分割を禁じます。
相続人の廃除・取消し生前に著しい非行や虐待があった相続人の相続権を奪う、またはそれを取り消します。
特別受益の持戻しの免除生前贈与などを遺産の前渡し(特別受益)として計算しないよう指示します。
祭祀(さいし)承継者の指定お墓、仏壇、位牌などを受け継ぎ、法要などを主宰していく人を指定します。
② 遺産の処分に関すること遺贈(いぞう)法定相続人以外の人(内縁のパートナーなど)や団体へ財産を無償で譲ります。
財団法人設立の寄付行為ご自身の財産を提供して、新たな財団法人を設立します。
信託の設定信頼できる人や信託銀行に財産を託し、指定した目的のために管理・運用させます。
生命保険金受取人の変更生前に加入していた生命保険の死亡保険金受取人を変更します。
③ 身分に関すること認知婚姻関係にない相手との間に生まれた子供を法的に認知し、相続権を与えます。
未成年後見人等の指定相続人が未成年で親権者がいない場合などに、財産管理等を行う後見人を指定します。
④ 遺言執行に関すること遺言執行者の指定・委託預金の解約や名義変更など、遺言内容を具体的に実現するための責任者を指定します。

なお、遺言書には法定遺言事項以外のこと(付言事項)も書くことができます。付言事項とは法的な効力はないものの、ご家族への想いを自由に書き残せるメッセージのことです。なぜそのような財産の分け方にしたのかという理由や、これまでの感謝の意思を伝えたい場合などに活用されます。法的効力はありませんが、ご自身の想いを残された家族に伝えることができ、相続トラブルを防ぐ効果を期待できます。

遺言書の役割~なぜ遺言書が必要か?

「うちには揉めるほどの財産がないから遺言書は必要ない」とお考えの方は少なくありません。しかし、実際に相続トラブルにまで発展するケースの多くは、ごく一般的な資産規模のご家庭で起きています。遺言書は、決して一部の資産家だけのものではありません。残されるご家族が遺産分割で迷ったり揉めたりすることなく、スムーズに手続きを進めるための「最後のおもいやり」でもあります。ここでは、遺言書を作成することで具体的にどのようなメリットがあるのかについて解説します。

【1】相続トラブルを防ぐため

まず、遺言書の一番のメリットは、残された家族間での相続トラブル(争族)を防ぐことです。

遺言書がない場合、相続人全員で遺産の分け方を決める「遺産分割協議」を行わなければなりません。しかし、遺産の大部分が不動産で平等に分けられない場合や、家族間の関係性が複雑な場合などは、協議が難航して争いに発展しやすくなります。あらかじめ遺言書で「誰に・どの財産を・どれくらい渡すか」を明確に指定しておけば、原則として遺言書に書かれた内容が協議よりも優先されるため、家族が遺産を巡って争うことを未然に防ぐことができます。

【2】特定の相続人に遺産を集中させるため

次に、特定の相続人に遺産を集中して引き継がせることができるのも、遺言書の重要な役割です。

遺産分割協議では法律が定める法定相続分に従って相続人同士で平等に遺産を分けることが基本となります。しかし、「自分が営んできた事業を長男にそのまま継がせたいため、自社株や店舗をすべて譲りたい」「晩年、献身的に介護をしてくれた長女に多めの預貯金を残して報いたい」といったご家庭ごとの特別な事情は、法定相続分には反映されません。遺言書を作成して明確に意思を残しておけば、法定相続分にとらわれることなく、ご自身の希望通りに特定の相続人へ遺産を多く引き継ぐことができます。

【3】法定相続人以外の人に遺産を引き継ぐため

さらに、法定相続人ではない人へ遺産を引き継ぐためにも、遺言書は欠かせません。

法律上の相続権は、配偶者や子供、親、兄弟姉妹などの決められた親族にしか認められていません。そのため、「長年連れ添ってきたが籍は入れていない事実婚(内縁)のパートナー」や、「自分の介護を親身になって手伝ってくれた息子の妻」などに対しては、どんなに感謝の気持ちがあっても、遺言書がなければ遺産を残すことはできません。遺言書でしっかりと指定しておくことで、血縁関係や法律の枠組みにとらわれず、ご自身が本当にお世話になった方へ恩返しとして遺産を引き継ぐことができます。

【4】相続手続きにかかる遺族の負担を減らすため

最後に、残されたご家族が相続後に直面する相続手続きの精神的・時間的な負担を大幅に減らせることも、遺言書の重要な役割です。

遺言書がない場合、銀行口座の解約や不動産の名義変更(相続登記)を行うには、相続人全員の合意をまとめた「遺産分割協議書」と、全員分の実印や印鑑証明書を揃えなければなりません。疎遠な親族がいる場合、連絡を取って協力をお願いするだけでもご遺族には大きなストレスがかかります。有効な遺言書があれば、遺産分割協議を省略し、遺言書と最低限の書類だけで速やかに名義変更等の手続きを進めることができるため、大切なご家族を面倒な手続きから守ることができます。

遺言書を作成しておきたい場合は?

遺言書の役割はおわかりいただけたかと思いますが、実際にどのようなご家庭でより遺言書を作る必要性が高まるのでしょうか。大切なご家族に面倒な手続きや精神的な負担をかけないためにも、とくに遺言書を作成しておきたい代表的な10のケースを解説します。

【1】子どもがいない夫婦の場合

まず、子どもがいない夫婦の場合です。

遺言書がないと配偶者だけでなく、被相続人の親や兄弟姉妹にも相続権が発生してしまいます。残された配偶者が義理の親族と遺産分割協議を行うのは精神的な負担が非常に大きく、トラブルに発展しがちです。遺言書を作成しておけば、配偶者は義理の親族と遺産分割協議をすることなくすべての財産を引き継ぐことができます(※)。遺言書の作成は大切なパートナーを煩わしい遺産分割協議から守るための手段となります。

💡親には遺留分が確保されている
配偶者と親が相続人となるケースでは、親の「遺留分」に配慮する必要があります。遺留分とは、法律上、相続人に最低限認められた遺産に対する取り分です。遺留分を侵害された親が配偶者に請求(遺留分侵害額請求)を行うと、配偶者は原則として「現金」で親に支払わなければなりません。遺産が自宅不動産のみの場合などは、配偶者が金策に困る可能性があります。

これを防ぐためには、あらかじめ遺言書で「親に預貯金〇〇万円(1/6相当)を、残りを配偶者に相続させる」と遺留分に配慮した書き方をしておくか、配偶者を生命保険の受取人にして遺留分を支払うための現金を確保しておく対策が有効です。また、先ほど説明した「付言事項」で親へ感謝とともに遺留分請求を控えてほしい旨を書き添えることも、請求を思いとどまらせる効果が期待できます。

なお、被相続人の兄弟姉妹には遺留分は認められていません。そのため、配偶者と兄弟姉妹が相続人になるという場合は、「全財産を配偶者に相続させる」という遺言書を作成していたとしても、上記のような問題が生じることはありません。

【2】相続権のない人に財産を引き継ぎたい場合

次に、相続権のない人に財産を引き継ぎたい場合です。

法律婚をしていない内縁のパートナーや息子の妻など、法定相続人以外には相続権がないためです。どんなに献身的に自分を介護をしてくれたり、長年連れ添ったりした事実があっても、遺言書がなければその方に財産を残すことはできません。万が一の場合、残されたパートナーが相続権を取得した相続人から住み慣れた家からの立ち退きを迫られといった危険も。遺言書で明確に意思表示しておくことではじめて、ご自身の感謝の想いを形にし、大切な人に財産を引き継ぐことができます。

【3】相続人同士の仲が悪い場合

次に、相続人同士の仲が悪い場合です。

遺言書がない場合は相続人全員による遺産分割協議が必要ですが、仲が悪い関係では感情的な対立が先走り、話し合いすらできないことが多々あります。あらかじめ遺言者自身が「誰にどの財産を引き継ぐか」を遺言書で指定しておけば、原則として遺言書に書かれた内容が優先されるため、仲の悪い相続人同士の遺産分割協議は必要なくなります。

【4】相続人の数が多い場合

次に、相続人の数が多い場合です。

相続人の数が多くなるほど、全員の意見をまとめて手続きを進めることが難しくなります。遺言書がない場合の相続手続きは、相続人全員の実印と印鑑証明書を集めた遺産分割協議書が必要となることがほとんどです。代襲相続などで面識のない親族まで相続人になっている場合、全員と連絡を取って書類を揃える労力はご遺族にとってかなりの負担となります。遺言書を作成しておけば遺産分割協議自体を省略できるため、相続人全員に実印をもらったり、印鑑証明書をとってきてもらう必要がなくなります。

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【5】認知した子がいる場合

次に、認知した子がいる場合です。

認知した子がいる場合、その認知した子にも、現在の配偶者との間に生まれた子と全く同じ法定相続分が認められています。しかし、現在の家族と認知した子が直接遺産分割協議を行うのは感情的なわだかまりも大きく、協議が難航する可能性が高いです。生前に遺言書でそれぞれの事情に配慮した配分を定めておくことで、残された家族同士が直接話し合いをすることを避けることができます。

【6】認知していない子がいる場合

次に、認知していない子がいる場合です。

認知していない子は相続権がありません。生前に認知していない場合は、遺言書の中で「〇〇を認知する」と記載(遺言認知)しておけばその子を認知でき、その子にも相続権を与えることができます。生前は様々な事情で認知できず、誰にも知られずに手続きを行いたい場合など、ご自身の責任としてその子に財産を残したい場合はこの方法を検討する必要があります。なお、遺言認知を行う場合、死後に役所へ認知届を提出できるのは「遺言執行者」のみです。遺言書で指定していないと、残された家族が家庭裁判所で選任手続きを行わなければならないため、必ず遺言書の中で遺言執行者を指定しておきましょう。

【7】認知症、未成年者、行方不明の相続人がいる場合

次に、相続人の中に認知症、未成年者(18歳未満の人)、行方不明の人がいる場合です。

認知症や未成年者の相続人は一人で遺産分割協議に関わることができず、家庭裁判所で「(認知症の相続人には)成年後見人」や「(未成年者の相続人には)特別代理人」を選任する手続きが必要です。行方不明者がいる場合も「不在者財産管理人」を立てる必要があり、膨大な時間と費用がかかります。遺言書であらかじめ財産の分け方を指定しておけば、面倒な裁判所の手続きをすべて省略して手続きを進めることができます。

【8】主な財産が自宅不動産のみの場合

次に、主な財産が自宅不動産の場合です。

不動産は現金のように分けられないため、単独で相続しようとすると他の相続人から不満が出やすくなります。かといって法定相続分通りに「共有名義」にすると、将来の売却などの処分が難しくなります。共有名義の不動産を売却するには共有者全員の同意が必要となるからです。遺言書で「同居する長男に自宅を相続させる代わりに、長女には預貯金を多く配分する」などと指定しておくことで、実家の相続をめぐるトラブルを防ぐことができます。

【9】相続人間で不公平感がある場合

次に、相続人間で不公平間がある場合です。

相続人の一人が生前に多額の資金援助を受けていた、親と同居していて長年にわたり親の介護をしていたなどの事情があり、相続人間で不公平感が生まれているときは、そのままでは遺産分割協議が難航する可能性が高いです。もちろん、遺産分割協議でも個別の事情に応じた相続分に修正することはできますが、不公平感が生じている現状では遺産分割協議は難航し決裂する可能性が高いでしょう。「長女の介護の労に報いるため多めに配分する」といった内容の遺言書を作成しておくことで、相続人間の不公平間を解消し、円滑な相続手続きにつなげることができます。

【10】家業の後継者を指定したい場合

次に、特定の相続人に家業を継がせたい場合です。

自営業や会社経営をしており、特定の相続人に事業を継がせたい場合は、事業資産の分散を防ぐために遺言書が必須です。遺産分割協議で法定相続分通りに財産を分けてしまうと、自社株式や店舗、工場などの重要な事業用資産まで細かく分割され、経営権が不安定になり事業継続が困難になる恐れがあります。「後継者である長男に自社株式と事業用不動産をすべて相続させる」と遺言書で明確に指定することで、後継者にスムーズに経営資産を集中させ、従業員や取引先を守りながら家業を継続させることができます。

遺言書の種類・特徴

遺言書と一言でいっても様々な種類の遺言書があります。ここでは、遺言書の種類の全体像を紹介した上で、相続で作成されることの多い「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」について解説します。

【1】普通方式と特別方式

まず、遺言書は「普通方式」と「特別方式」の2種類にわけることができます。

一般的に「遺言書」と呼ばれるものは「普通方式」の遺言書を指します。普通方式の遺言書には、ご自身で手書きする「自筆証書遺言」、公証人に作成してもらう「公正証書遺言」、内容を秘密にしたまま存在のみを公証役場で証明してもらう「秘密証書遺言」の3種類があります。実務上、秘密証書遺言が使われることはほとんどなく、大半の方が自筆証書遺言か公正証書遺言のどちらかを選んで作成しています。

一方、普通方式の遺言書の作成が難しい場合に作成するのが「特別方式」の遺言書です。特別方式の遺言書には、病気やケガで死期が目前に迫っている場合に作成する「危急時遺言」と伝染病等で隔離されている場合に作成する「隔絶地遺言」があります。特別方式の遺言書はあくまで緊急時に作成する遺言書のため、あまり作成されることはありません。

以下では、よく作成されることが多い「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」について解説します。

【2】自筆証書遺言

自筆証書遺言は、遺言者が遺言書の全文、日付、氏名を自ら手書きし、押印して作成する遺言書です。

費用をかけずにいつでも手軽に一人で作成できます。誰にも知られずに作成でき、遺言書の存在自体を秘密にしておくこともできます。一方、法律にあまり詳しくない人が作成すると無効な遺言書が作成されてしまったり、発見されない、あるいは発見された人に隠されたり、破棄される危険もあります。また、遺言者が亡くなった後は、検認という手続きも必要です。

なお、自筆証書遺言を法務局に預かってもらえる制度(自筆証書遺言保管制度)を使えば、上記の危険を避けることができます。また、この制度を使えば検認の手続きが不要となります。

【3】公正証書遺言

公正証書遺言は、公証役場において、法律の専門家である「公証人」に作成してもらう遺言書です。

公証人が作成するため無効となる遺言書が作成されてしまう可能性は限りなく低いといえます。遺言書の本文は公証人が作ってくれます。また、遺言書の原本は公証役場で保管されるため、隠匿や毀棄、紛失の危険がありません。検認の手続きも不要です。相続開始後は遺言書の有無を検索することができます。一方、公証役場での手続きが必要で、作成するには費用がかかります。また、作成時には公証人のほか2名以上の証人が立ち会うため、公証人や証人には遺言書の内容が知られてしまうというリスクはあります。

【4】自筆証書遺言・公正証書遺言のメリット、デメリット

遺言書の種類メリットデメリット
自筆証書遺言・費用をかけずに作成できる
・いつでも手軽に一人で作成できる
・誰にも知られずに作成でき、秘密にできる
・無効な遺言書になってしまうリスクがある
・紛失や、発見者に隠匿・破棄される危険がある
・死後に家庭裁判所での「検認」手続きが必要
(※法務局の保管制度を利用すれば一部回避可能)
公正証書遺言・公証人が作成するため、無効になる危険が限りなく少ない
・原本が公証役場で保管されるため、紛失や隠匿・破棄の危険がない
・遺言書を検索できる
・死後の「検認」手続きが不要
・作成に費用がかかる
・公証役場での手続きが必要
・公証人や証人(2名以上)に内容を知られてしまう

手軽に書きたいなら「自筆」、確実性を重視するなら「公正証書」

遺言書を作成するにあたってまず悩むことが、自筆証書遺言と公正証書遺言のどちらで遺言書を作成するのか、という点です。

この点、確実性や安全性を重視するのであれば「公正証書遺言」がおすすめです。しかし、費用や手間の負担を抑えたいという理由から「自筆証書遺言」を選ばれる方も多くいらっしゃいます。ただし、自筆証書遺言を作成するのであれば、自宅等でご自身で保管するのではなく、法務局の「自筆証書遺言書保管制度」を利用することをおすすめします。

これまでは、自筆証書遺言には「紛失や改ざんのリスクがある」「ご自身の死後に家庭裁判所での『検認』手続きが必要になる」という大きなデメリットがありました。しかし、法務局の保管制度を利用すれば、遺言書の原本が公的機関で厳重にデータとともに保管されるため、紛失や隠匿、改ざんの心配が一切なくなります。

さらに、提出時に法務局の担当者が「全文自筆か」「日付や署名があるか」といった外形的なチェックを行ってくれるため、形式不備で無効になるリスクを減らすことができます(※内容の法的な有効性を保証するものではありません)。そして何より、死後の「検認」手続きが不要になるため、残されたご家族がすぐに預金の解約や不動産の名義変更などの手続きに取り掛かれるのが最大のメリットです。

費用を抑える手軽さを活かしつつ、安全・確実に想いを残したいとお考えの方には、「自筆証書遺言を作成し、法務局の保管制度を利用する」という組み合わせが非常に望ましい選択肢と言えます。

遺言書を作るにあたって準備しておくべきこと

遺言書を作るにしても、事前準備なしにいきなり作ればいいというわけではありません。不備のない遺言書を作るためには、遺言書の作成にとりかかる前に以下のことを準備しておく必要があります。

なお、【1】から【4】までは自筆証書遺言、公正証書遺言、共通の準備事項ですが、【5】と【6】は自筆証書遺言特有の準備事項となります。

【1】誰が相続人かを把握する

まず、誰が法定相続人になるかを正確に把握しておくことが必要です。

自分では把握しているつもりでも、古い戸籍を辿ると思いもよらない相続人(認知した子や代襲相続人など)が判明することがあるからです。もし相続人を一人でも見落としたまま遺言書を作成すると、その相続人の遺留分を侵害してしまうなど予期せぬトラブルを招いてしまうおそれがあります。そのため、ご自身の出生から現在までの戸籍謄本をすべて取り寄せ、法律上の相続人を確実に特定しておくことが不可欠です。

【2】財産を洗い出し「一覧」を作る

次に、すべての財産を洗い出し「一覧(財産目録)」を作ることです。

遺言書に記載漏れのある財産が見つかると、その財産についてのみ相続人全員で遺産分割協議を行わなければならず、大きな負担をかけてしまうからです。預貯金や不動産といったプラスの財産はもちろん、借金やローンなどのマイナスの財産もすべて漏れなく把握する必要があります。

なお、遺言書に遺産の分け方について書かない場合でも財産を洗い出しておくことには意義があります。一覧表で財産を明らかにしておけば、相続人が相続開始後に遺産調査をする必要がなく相続人の負担を減らすことにもつながるからです。

【3】遺言内容を決める

次に、遺言書に書く内容を決めます。すでに述べたとおり、遺言書に書く内容には法的な効力があるもの(法定遺言事項)とそれ以外のもの(付言事項)があります。まずは、両者をきちんと区別することが大事です。

財産を引き継ぐ場合は「誰に・どの財産を・どれだけ」引き継ぐのかを決めておきます。この際、遺留分には注意が必要です。また、財産を引き継ぐ人が遺言者よりも先に亡くなったときに備えての予備的遺言を書いておくかどうかも考えておく必要があります。

【4】遺言執行者を探す

次に、遺言内容を具体的に実現してくれる「遺言執行者」を探すことです。

遺言書を作成しただけでは財産の名義は変わらず、遺言者が亡くなった後に銀行口座の解約や不動産の相続登記といった手続きを誰かが行う必要があるからです。遺言書の中で遺言執行者を指定しておけば、相続人全員の協力を得ることなく、執行者が単独で手続きを進められます。候補者には事前に打診し、承諾を得ておくことで死後の手続きをよりスムーズに進めることができます。

なお、遺言認知や相続人の廃除などの手続きは遺言執行者のみが行うことができますので、これらの事項を遺言書に書くときは、あわせて遺言執行者の指定に関する事項も書いておく必要があります。

【5】遺言書の保管方法を決める

次に、作成した自筆証書遺言をどこに保管するかを決めることです。

自筆証書遺言は遺言者の死後に確実に見つけてもらわなければ意味がなく、一方で生前に紛失したり、一部の相続人に改ざん・破棄されたりするリスクも防がなければならないからです。自宅の金庫などで保管するほか、現在では法務局で遺言書を預かってくれる「自筆証書遺言書保管制度」を利用することもできます。安全かつ確実にご遺族へ届く保管方法をあらかじめ検討しておく必要があります。

【6】用紙・筆記用具・印鑑を準備する

次に、自筆証書遺言を書くための用紙・筆記用具・印鑑を準備することです。

自筆証書遺言は法律の素人の方でも作成できる遺言書のため、遺言書の作成に関しては公正証書遺言以上に厳しいルールが設けられており、これに違反するとせっかく作成した遺言書が無効になってしまいます。「用紙」に指定はありませんが長期保存に耐える丈夫なものを、「筆記用具」は改ざんを防ぐため鉛筆や消せるボールペンは避け、消えない万年筆やボールペンを用意します。また、押印用の「印鑑」は認印でも有効ですが、本人の意思であることを確実にするため実印の準備をお勧めします。

自筆証書遺言を作成する際に絶対に守らなければならないルール

自筆証書遺言は手軽に作成できる反面、一定のルールに沿って作成しなければなりません。せっかく家族を想って書いた遺言書であっても、このルールに一つでも違反してしまうと、法的な効力が認められず遺言は無効になってしまいます。ここでは、大切なご家族に確実にご自身の意思を届けるため、自筆証書遺言を作成するにあたって絶対に守らなければならない基本的なルールについて解説します。

なお、公正証書遺言の作成方法・手順については以下の記事で詳しく解説しています。

【ルール1】遺言能力

まず、そもそも遺言する能力があることです。なお、自筆証書遺言以外の遺言書でも遺言能力は必要です。

この遺言能力があるといえるためには「年齢」と「意思能力」から判断されます。

①年  齢:法律上、満15歳以上であれば、親の同意がなくても単独で有効な遺言書を作成することができます。
②意思能力:意思能力とは、遺言書を作成する本人が、自分が書いている内容の意味や、それによってどのような法的な結果が生じるかを正しく理解できる能力のことです。遺言書を作成するときにあればよく、その後に失われても遺言書は無効とはなりません。

したがって、たとえ15歳以上であっても、重度の認知症などで意思能力を失っているときに書かれた遺言書は無効です。「遺言書を書いた当時、親はすでに認知症が進行しており遺言能力がなかったはずだ」として、死後に遺言の有効性を巡る裁判に発展するケースは少なくありません。

遺言書と聞くと、高齢者や亡くなる間際に書くものというイメージをもたれがちですが、むしろ、判断能力がしっかりしている元気なうちに書いておくことが重要です。

【ルール2】全文を自筆で書く(財産目録を除く)

まず、遺言書の本文をすべて自分の手で書くことです。

自筆証書遺言は、遺言者本人が必ず自筆で作成しなければなりません。パソコンやスマートフォンでの入力、家族や第三者による代筆、音声や動画での記録などは一切認められません。ただし、「財産目録(遺産の一覧表)」の部分に限り、パソコンで作成したものや、通帳のコピー、不動産登記事項証明書を添付することができます。この場合でも、偽造防止のためにパソコン等で作成した財産目録の全ページ(両面印刷の場合は両面とも)に、遺言者本人の署名し、押印しなければなりません。

【ルール3】正確な作成日付を自筆する

次に、遺言書を作成した年月日を正確に自筆することです。

次に、遺言書を作成した年月日を正確に自筆することです。遺言書には「令和〇年〇月〇日」のように、カレンダー上の特定の日付を明確に書かなければなりません。「令和〇年〇月吉日」のように作成日を特定できない書き方をすると、法律上の要件を満たしていないとみなされ、せっかく書いた遺言書が無効になってしまいます。日付は和暦でも西暦でも問題ありませんが、年月日のすべてが揃っている必要があります。この日付が重要なのは、同じ人から複数の遺言書が見つかった場合、内容が矛盾する部分については「最も日付が新しい遺言書」が優先されるためです。また、遺言書を書いた当時の遺言者に、遺言を作成するだけの判断能力があったかどうかを後から確認するための基準日にもなります。そのため、必ず作成したその日の日付を忘れずに記載してください。

【ルール4】遺言者本人の氏名を自筆する

次に、遺言者本人の氏名を自筆で署名することです。

遺言書に書かれた内容が誰の意思表示によるものなのかを明確にするため、必ず自筆でフルネームを書かなければなりません。本人であることが特定できればペンネーム(雅号)や通称名でも遺言書が有効になるケースはあります。しかし、ご自身の死後に残されたご家族が金融機関の預金解約や法務局での不動産の相続登記といった手続きを行う際、ペンネーム等では本人確認の手続きが難航し、余計な時間や手間がかかってしまう可能性があります。そのため、実務上は戸籍謄本や住民票に記載されている通りの氏名を書くのが鉄則です。また、夫婦であっても連名で一つの遺言書を作成する「共同遺言」は法律で禁止されています。ご夫婦それぞれが遺言を残したい場合は、必ず別々の用紙に自分自身の名前だけを署名して、個別に作成する必要があります。

【ルール5】遺言者本人の印鑑で押印する

次に、遺言書の本文に署名した箇所へ印鑑を押すことです。

自筆証書遺言には、自筆の署名に加えて押印が法律で義務付けられています。使用する印鑑は、法律上は普段使いの認印や、拇印(指紋)でも遺言書は有効とされています。しかし、遺言者が亡くなった後に、一部の相続人から「誰かが勝手に偽造して印鑑を押したのではないか」「本当に本人の意思で作成したものなのか」と疑われ、無用なトラブル(争族)に発展する可能性があります。こうした事態を防ぎ、本人の真意によって作成されたことを確実なものにするため、実際には、市区町村役場に印鑑登録している「実印」を使用することをおすすめしています。また、シャチハタなどのインク内蔵型ゴム印は、長年保管している間にインクが薄れて印影が消えてしまったり、ゴムが変形してしまったりするおそれがあるため、遺言書の作成においては絶対に使用を避けてください。

【ルール6】訂正は法律で定められたルールに従って行う

次に、遺言書への加除やその他の変更は、法律で定められたルールに従って行うことです。

具体的には、

  • 訂正する箇所を指示(指摘)する
  • その箇所を変更した旨を付記して署名する
  • 変更した場所に押印する

というものです。

※訂正方法の説明のため、一部必要事項を省略しています。
※二重線は本文を書いたペンと同じペンで引きましょう。

修正液や修正テープを使ったり、単に二重線で消したりしただけの訂正はすべて無効になります。上記のルールを一つでも間違えるとその訂正は無効とされ、訂正前の内容が遺言としての効力を生じます。なお、遺言書作成の専門家としては、少しでも書き間違えをしてしまった場合は、決して訂正しようとせず、新しい用紙を用意して最初から全文を書き直すことをおすすめしています。

自筆証書遺言のひな形

ここでは、自筆証書遺言の具体的な中身について解説する前に、自筆証書遺言のひな形を示します。まずは、ざっくりとしたイメージをつかんでいただければと思います。なお、以下のひな形はパソコンで作成していますが、実際は「手書き」で書かなければならないことには注意してください。

【設定】
被 相 続 人:山田太郎(夫)
相 続 人:山田花子(妻)、山田一郎(長男)、山田二郎(次男)
遺   産:①不動産(自宅)②ネコ銀行の預金、③イヌ銀行の預金
遺 言 内 容:①は妻に、②は長男に、③は次男に相続させる。付言事項を入れる。

自筆証書遺言の書き方

それでは、ここからは、自筆証書遺言の書き方について解説していきます。

第1条

第1条 遺言者は、遺言者の有する次の不動産を、遺言者の妻 山田花子(昭和〇年〇月〇日生)に相続させる。

(土地)
所  在 〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目
地  番 〇〇番〇
地  目 宅地
地  積 〇〇.〇〇平方メートル

(建物) 
所  在 〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目〇〇番地〇
家屋番号 〇〇番〇
種  類 居宅
構  造 木造かわらぶき2階建
床 面 積 1階 〇〇.〇〇平方メートル
     2階 〇〇.〇〇平方メートル

不動産の書き方で最も大切なことは、「土地」と「建物」に関する情報を「登記簿謄本(登記事項証明書)」のとおりに書くことです。遺言書で不動産で引き継ぐ予定のある場合は、「【2】財産を洗い出し「一覧」を作る」の段階で法務局から登記簿謄本を取り寄せておく必要があります。情報が不足していたり、1文字でも間違えていたら相続登記(不動産の名義変更)ができない可能性もありますので注意が必要です。なお、不動産に限らず、財産を引き継ぐ人については「妻 山田花子(昭和〇年〇月〇日生)」などと「続柄・氏名・生年月日」で特定した方が安心です。

第2条・第3条

第2条 遺言者は、遺言者の有する次の預金を、遺言者の長男 山田一郎(平成〇年〇月〇日生)に相続させる。

    ネコ銀行 〇〇支店 普通預金
口座番号〇〇〇〇〇〇〇

第3条 遺言者は、遺言者の有する次の預金を、遺言者の次男 山田二郎(平成〇年〇月〇日生)に相続させる。

イヌ銀行 〇〇支店 普通預金
口座番号〇〇〇〇〇〇〇

預貯金の書き方のポイントは、預貯金の残高を書かないことです。遺言書を作成した後に残高が変動することが多いですし、書いてしまうと預貯金のうち遺言書に書かれた金額のみを相続させる趣旨であると解釈されてしまう可能性があるからです。相続させる預貯金は「金融機関・支店名・種別(普通・当座)・口座番号」で特定します。

第4条(予備的遺言)

第4条 遺言者は、妻 山田花子が遺言者の死亡以前に死亡したときは、第1条で妻 山田花子に相続させるとした不動産を、長男 山田一郎に相続させる。

もし、遺言者が亡くなるよりも前に妻の山田花子が亡くなった場合、特段の事情がない限り、第1条の効力は生じません。つまり、山田太郎名義の不動産については遺言がなかったことになり、山田一郎と山田二郎で遺産分割協議をしなければならなくなります。

ここで二人で仲良く話し合いができればいいですが、話し合いが難航しそうな事情がある場合は、遺言者の方であらかじめ不動産を引き継ぐ人を指定しておくことができます。これが予備的遺言です。

なお、ここで、「妻が亡くなったときにあらためて遺言書を作ればいいのでは?」と思われる方がいるかもしれませんが、そのときに認知症などで遺言者の判断能力が低下しているときは遺言書が作ることができないことも考えられます。考えがまとまっているときは、早めに意思表示しておいた方がよいでしょう。

付言事項

付言事項
私の葬儀については、家族と近しい親族のみで見送る「家族葬」とし、過度な費用をかけず質素に行ってください。
花子、一郎、二郎へ。今日まで本当にありがとう。これからも3人で力を合わせ、仲良く助け合って生きていってください。

この記事の冒頭でも述べたとおり、付言事項には法的効力がありません。上の例でいいうと、残された家族は家族葬ではない別の形式で葬儀を行っても法的な問題はないことになります。

しかし、付言事項では、法定遺言事項では書くことができない残された家族への「最後のメッセージ」を書くことができます。強制力はなくても、相続人間の感情的な対立を和らげ、あるいは結束を強くする重要な意義があります。

ただし、法的効力がないからといって何でも書いていいわけではありません。書く内容や書き方によっては、却って相続人間の対立を増幅させる結果にもなりかねないため注意が必要です。

署名・押印

令和〇年〇月〇日
〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目〇番〇号
遺言者 山田 太郎 ㊞

最後に、遺言書の末尾に、必ず遺言者本人が自筆で氏名を書き、押印しなければなりません。氏名は、死後の手続きをスムーズに行うためにも、戸籍通りのフルネームを正確に書くのが鉄則です。

また、押印は法律上は認印でも有効ですが、死後に「他人が勝手に押したのではないか」と偽造を疑われることを防ぐため、印鑑登録している「実印」を使用しましょう。インクが劣化するシャチハタの使用は絶対に避けてください。

遺言書の書き方Q&A

ここでは、遺言書の書き方でよくある疑問と回答についてまとめました。

Q:遺言書とエンディングノートの違いは何ですか?

A: 最も大きな違いは「法的な効力の有無」です。すでに解説したとおり、遺言書は法律で書き方のルールが定められており、財産の分け方などについて法的な拘束力を持ちます。一方、エンディングノートには法的な効力が一切ありません。しかし、遺言書には書けないような日常の細かな情報(パソコンのパスワード、ペットの世話、延命治療の希望など)や、家族への感謝の気持ちを自由に書き残せるというメリットがあります。法的な効力を発生させたいことは遺言書で、それ以外の想いや情報はエンディングノートで、と両方を併用するのがおすすめです。

Q:口頭での遺言も有効ですか?

A: 原則として、口頭での遺言は無効です。たとえば、家族の目の前で「全財産を長男に譲る」と口約束をして録音・録画を残したとしても、法的な効力は生じません。遺言は、法律で定められたルールに従って書面で作成しなければならないと決まっているためです。例外として、死期が目前に迫っている場合の「危急時遺言」という口頭での方式もありますが、証人3名以上の立ち会いや裁判所での手続きが必要などハードルが高いため、元気なうちに書面で作成しておくのが鉄則です。

Q:横書きの遺言書でも有効ですか?

A:はい、横書きで作成しても問題なく有効です。法律上、自筆証書遺言を縦書きにするか横書きにするかの決まりはありません。そのため、ご自身が書き慣れている方向で自由に作成していただけます。横書きで作成する場合、日付や預金額などの数字にはアラビア数字(1、2、3など)を使用すると読みやすくなります(もちろん漢数字を使用しても有効です)。縦書き・横書きのどちらであっても、誰が読んでも内容が正確に伝わるように、はっきりとした丁寧な文字で書き上げることが何より重要です。

Q:遺言書は封筒に入れる必要はありますか?

A: 法律上、封筒に入れる義務はありません。用紙のまま保管しても有効ですが、汚れや改ざんを防ぎ、秘密を守るためには封筒に入れて封印(のり付けして印鑑を押すこと)することをおすすめします。ただし、封印された遺言書は、ご自身の死後に発見者が勝手に開封してはならず、家庭裁判所に持ち込んで相続人立ち会いのもとで開封(検認手続き)しなければならないという注意点があります。なお、法務局の「自筆証書遺言書保管制度」を利用する場合は、封筒に入れずにそのまま窓口へ提出します。

Q:遺言書が2枚以上(複数枚)になっても有効ですか?その場合どうすればいいですか?

A: はい、複数枚になっても有効です。ただし、用紙がバラバラになってしまうと、死後に「一部のページが抜き取られたのではないか」「別のページに差し替えられたのではないか」と疑われる原因になります。これを防ぐため、複数枚になった場合はホッチキス等で1つにまとめ、すべてのページのつなぎ目に「契印(割印)」を押すのが実務上の鉄則です。契印には、遺言書の本文に押したものと同じ印鑑(実印)を使用してください。

Q:遺言書を書いたことについて、誰かに言っておく必要はないでしょうか?

A: 遺言書の中身まで誰かに教える必要はありません。しかし、「遺言書を書いたこと」と「どこに保管しているか」だけは、遺言執行者や最も信頼できる人に伝えておきましょう。せっかく有効な遺言書を作成しても、死後に誰にも発見されなければ、画に描いた餅になるからです。自筆証書遺言書保管制度や公正証書を利用する場合でも、万が一の際に備えて「遺言書は法務局(または公証役場)にある」という事実だけは伝えておくのがもっとも安心です。

Q:遺言書に有効期限はありますか?(昔書いた遺言書は無効になりますか?)

A: いいえ、遺言書に有効期限はありません。作成から10年、20年と経過していても、法律上の要件を満たしていれば有効です。ただし、作成から長期間が経過すると、「遺言書に書いた不動産をすでに売却してしまった」「財産を譲るはずだった人が先に亡くなってしまった」など、現状と内容が食い違ってくることが多々出てきます。そのため、数年ごとに内容を読み返し、状況が変わっていれば新しく書き直すことをおすすめします。

Q:借金やローン(マイナスの財産)を誰が引き継ぐかも遺言書で指定できますか?

A: 遺言書に「借金はすべて長男に相続させる」などと書くこと自体はできますが、お金を貸している側(債権者)の同意がなければ法的な効力は生じません。 支払能力がない人に返済義務を引き継がれてしまった場合、債権者が貸金を回収することができなくなり困ってしまうからです。そのため、債権者の同意がない限り、借金などの債務は遺言書の内容に関わらず、法定相続分に応じて相続人全員が引き継ぐのが原則となります。

Q:字が汚かったり、高齢で手が震えたりして読みづらい文字でも有効ですか?

A: 遺言者本人の自筆であり、何が書かれているか判読できるレベルであれば、字が上手でなくても有効です。ただし、「誰が読んでも内容が確実にわかる」ことが大前提です。あまりにも乱筆で財産の指定や名前が読み取れなかったり、他の文字と読み間違えられたりするような場合は、遺言が無効になったり、相続トラブルの火種になる可能性があります。上手である必要はありませんので、ゆっくりと誰でも読める丁寧な文字で書くよう心がけてください。

Q:大切なペットに遺産を残す(相続させる)ことはできますか?

A: 日本の法律上、ペットは「モノ(動産)」として扱われるため、ペット自身に遺産を残すことはできません。もしご自身の死後のペットの生活を守りたい場合は、「ペットの飼育を引き受けてもらうことを条件に、信頼できる人や団体に財産を譲る(これを『負担付遺贈』と呼びます)」という方法を遺言書に記載することで、実質的にペットの将来を守ることができます。

Q:遺言書の書き方について誰に相談したらいいですか?

A: 遺言書の作成については、弁護士、司法書士、行政書士などの専門家に相談するのが一般的です。それぞれ得意分野や役割が異なるため、ご自身の状況に合わせて選ぶことをお勧めします。たとえば、すでに家族間で揉めており、将来的に法的な争いや交渉に発展する可能性が高い場合は「弁護士」が適しています。また、遺産に不動産が含まれており、将来の相続登記までを見据えたい場合は「司法書士」に相談するのがスムーズです。一方、相続トラブルの可能性は低く、費用を抑えつつ形式不備のない確実な遺言書を作りたい場合や、ご自身の想いを丁寧に形にしたい場合は「行政書士」へ相談することも考えられます。形式不備で遺言が無効になるリスクを防ぐため、不安であれば一度専門家に相談されることをおすすめします。

遺言者が亡くなってから遺言内容を実現するまでの流れ

これから遺言書を作る方も、自分が亡くなった後の手続きについても少し知っていた方がいいかもしれません。死後に残された家族がどのような手続きを行うのかをあらかじめイメージできれば、「遺言執行者を指定しておいた方が手続きがスムーズだ」「法務局の保管制度を利用した方が家族の負担が減る」など、ご自身の遺言書をより配慮の行き届いた内容に近づけることができるからです。

そこで、最後に、遺言者が亡くなった後、遺言内容(ひな形で書いた内容)を実現するまでの流れについて簡単に解説したいと思います。なお、以下の流れは、遺言者(山田太郎)が自筆証書遺言書保管制度を利用し、利用したことを妻(山田花子)に伝えている、ということを前提としています。

【1】遺言の効力が発生する

まず、遺言書に書かれてある内容(法定遺言事項)は、遺言者が亡くなると同時に効力が発生します(遺言書を書いた時点からではありません)。

今回のケースでは、夫(山田太郎)が亡くなった時点で、妻(山田花子)や子どもたちへ遺産を相続させるという内容の法的効力が発生します。遺言の効力自体は特別な手続きをしなくても発生しますが、実際に預貯金の解約や不動産の名義変更を行うためには【4】の手続きが必要となります。

【2】法務局で「遺言書情報証明書」を取得する

次に、法務局で「遺言書情報証明書」を取得します。

遺言者が亡くなった後、遺言書を法務局に預けていることを知らされていた妻(山田花子)などは、全国どこの法務局(遺言書保管所)でも「遺言書情報証明書」の交付を請求できます。この証明書には保管されている遺言書の画像データが印刷されており、遺言書原本の代わりとして、今後の預貯金の解約や不動産の名義変更といったあらゆる相続手続きに使うことができます。

なお、相続人の一人がこの証明書の交付を受けたり、法務局で遺言書を閲覧したりすると、法務局から他のすべての法定相続人に対して「遺言書が保管されていること」が自動的に通知される仕組みになっています。

💡相続人全員の同意があれば遺言と異なる分け方もできる
遺言書の内容は絶対的なものではありません。もしご遺族が「遺言書とは違う分け方をしたい」と希望する場合、相続人全員の同意があれば、遺言書に書かれた内容とは異なる遺産分割協議を行うことができます。 ただし、遺言で相続人以外に財産を譲る指定(遺贈)がある場合はその受遺者の同意が、遺言書で遺言執行者が指定されている場合は遺言執行者の同意もあわせて必要になります。

【3】必要書類を集める

次に、預貯金の解約や不動産の名義変更(【4】)に向けて必要な書類を集めます。

遺言書がない場合は以下の書類に加えて、「亡くなった方の出生から死亡までの連続したすべての戸籍謄本」や「相続人全員分の戸籍謄本と印鑑証明書」など、集める書類が増えます。遺言書がある場合は遺言書がない場合に比べて集める書類が少なく住む(相続人にかける負担を軽減できる)という点も大きなメリットです。

なお、提出先の金融機関によっては独自の所定用紙や追加書類が求められるケースもあるため、二度手間を防ぐためにもあらかじめに各窓口へ必要書類を確認しておくと安心です。

①預貯金の解約・払い戻し用

書類必要となる理由取得方法注意点
被相続人(亡くなった方)の戸籍謄本
(全部事項証明書等)
遺言者(口座名義人)が死亡した事実を金融機関が公式に確認するため。被相続人の本籍地の市区町村役場、または最寄りの市区町村役場(広域交付制度を利用)。「死亡の事実」が記載されているものが必要です。(※法定相続情報一覧図を取得している場合は代用できることがあります)
預貯金を取得する人(または遺言執行者)の戸籍謄本手続きを行う人が、遺言書で指定された受取人(または遺言執行者)であることを証明するため。本籍地の市区町村役場、最寄りの市区町村役場、またはコンビニ交付(マイナンバーカード等が必要)。金融機関によって「発行から3ヶ月(または6ヶ月)以内」といった有効期限が定められているのが一般的です。
被相続人の預金通帳・証書・キャッシュカード解約する口座を特定し、不正利用を防ぐとともに、金融機関側で確実に回収・破棄するため。亡くなった方の自宅や遺品の中から探し出して準備します。もし紛失して見当たらない場合でも手続きは可能ですが、窓口で紛失した旨を申し出る必要があります。
金融機関所定の相続手続依頼書
(解約・払戻請求書)
金融機関に対し、正式に口座の解約と指定口座への資金移動(払い戻し)を依頼するため。各金融機関の窓口で受け取るか、ホームページからのダウンロード、または郵送で取り寄せます。金融機関ごとに専用の用紙があります。指定された箇所に手続きを行う人の実印を押して提出します。
手続きを行う人の印鑑登録証明書 および 実印依頼書に押された印鑑が本人の実印であることを証明し、本人の真意による手続きであることを確認するため。住民登録をしている市区町村役場、またはコンビニ交付。印鑑証明書にも「発行から3ヶ月(または6ヶ月)以内」といった有効期限が設けられていることがほとんどです。
手続きを行う人の本人確認書類
(運転免許証、マイナンバーカード等)
窓口や郵送で手続きをしている人が、書類上の本人と間違いなく同一人物であることを確認するため。ご自身がお持ちの有効期限内のものを準備します。顔写真付きの公的な身分証明書が基本です。顔写真がない場合は、健康保険証など複数点の提示を求められることがあります。
(※遺言執行者が手続きを行う場合)
遺言執行者の印鑑証明書・実印、選任審判書等
遺言執行者が正当な権限を持って預金の解約手続きを行っていることを証明するため。印鑑証明書は市区町村役場等で取得。選任審判書は家庭裁判所で取得。遺言書の中で指定されていれば遺言書で証明できますが、家庭裁判所で選任された場合は「選任審判書」が必要です。

②不動産の名義変更用

書類必要となる理由取得方法注意点
被相続人の戸籍(除籍)謄本※①と重複するため省略※①と重複するため省略※①と重複するため省略
被相続人の住民票の除票
(または戸籍の附票)
不動産の登記簿上の所有者と、亡くなった被相続人が「同一人物」であることを証明するため。被相続人の最後の住所地の市区町村役場(または本籍地の役場)。登記簿に記載されている住所から、亡くなった際の最後の住所までのつながりがわかるものが必要です。
不動産を取得する相続人の戸籍謄本(抄本)※①と重複するため省略※①と重複するため省略※①と重複するため省略
不動産を取得する相続人の住民票の写し
(住所証明情報)
不動産の新たな所有者となる人の、正確な住所と氏名を法務局に登録(登記)するため。不動産を取得する人が住民登録をしている市区町村役場、またはコンビニ交付。マイナンバー(個人番号)が記載されていないものをご用意ください。
固定資産評価証明書
(または固定資産課税明細書)
名義変更(相続登記)の際に国へ納める税金(登録免許税)の金額を計算するため。対象となる不動産を管轄する市区町村役場(または都税事務所)。※課税明細書は毎年春に届く納税通知書に同封されています。登記を申請する年(最新年度)のものが必要です。
相続関係説明図法務局へ相続関係をわかりやすく示すとともに、提出した戸籍謄本等の原本を返却(原本還付)してもらうため。ご自身でパソコン・手書き等で作成するか、専門家(司法書士等)に作成を依頼します。これを作成して提出することで、戸籍謄本の原本が返却され、銀行の解約など他の手続きに使い回すことができます。

【4】遺産承継の手続きをする

最後に、集めた必要書類を各金融機関や法務局へ提出し、実際の遺産承継手続き(解約や名義変更)を行います。今回のケースでは遺言執行者が指定されていないため、原則として財産を引き継ぐ相続人ご自身がそれぞれ手続きを行います。

具体的には、長男の一郎さんがネコ銀行へ、次男の二郎さんがイヌ銀行へ行き(または郵送で)、遺言書を提出してご自身の口座へ預金を移します。あわせて、妻の花子さんは管轄の法務局へ行き、自宅不動産の名義を自分へ変更する「相続登記」の申請を行います。なお、遺言執行者が指定されている場合は、遺言執行者がこれらの手続きを単独で行うことができます。

各機関での手続きが無事に完了し、財産の引き継ぎが終われば、遺言書に込められたご自身の意思がすべて実現されたことになります。