【文例あり】予備的遺言とは?必要なケースや書き方のポイントを解説

遺言書を作成する際、「大切な財産をこの人に確実に引き継ぎたい」と思いを込める方は多いでしょう。しかし、財産を譲る予定だった相手が、ご自身より先に、あるいは同時に亡くなってしまったら…どうなるか考えたことはありますでしょうか?

実は、指定した受取人が遺言者よりも先に亡くなってしてしまうと、遺言の該当部分は無効となってしまいます。その結果、当該部分の財産については財産を引き継がせたくない人に渡ってしまう可能性もあるのです。

そんな意図しない事態の発生に備え、必ず知っておきたいのが「予備的遺言(補充遺言)」です。あらかじめ「もしもの時は、代わりに〇〇へ譲る」という予備的遺言を遺言書に盛り込んでおくことで、ご自身の意思を最後まで貫くことができます。

本記事では、予備的遺言の仕組みから、書いておくべき5つのケース、そのまま参考にできる具体的な文例まで分かりやすく解説します。予備的遺言は、せっかく作った遺言書でご自身の意思を貫くためにもぜひ知っていただきたい知識です。

予備的遺言(補充遺言)とは?

予備的遺言(補充遺言)とは、遺言書で財産を譲る予定だった相手(相続人や受遺者)が、遺言者より先に、あるいは同時に亡くなってしまった事態に備え、「その場合は代わりに〇〇へ財産を譲る」と、あらかじめ次の受取人を指定しておく遺言のことです。

通常、財産を譲るはずだった相手が先に死亡してしまうと、その部分の遺言は無効となります。無効になった財産は相続人全員での遺産分割協議の対象となり、遺言者が意図しない人に財産が引き継がれてしまう可能性があります。

予備的遺言をしておけば、予備的に書いた遺言が効力をもつため、万が一の事態が起きても遺言書の書き直しをしなくて済みます。また、財産を遺言者の望む相手に確実に引き継ぐことができます。

予備的遺言を書いていた方がいいケース

遺言書を作るにあたっては、特に予備的遺言を書いておくべきケースがあります。ここでは、その代表的な5つのケースをご紹介します。ご自身の状況に当てはまるものがないか、ぜひ確認してみてください。

【1】財産を引き継ぐ相手が高齢・病気の場合

まず、財産を引き継ぐ相手が高齢・病気の場合です。

親や高齢の配偶者、あるいは持病がある方に財産を譲りたいと考えている場合、遺言者よりも先に、または同時に亡くなってしまう可能性が高いといえます。もしその方が先に亡くなると、その箇所の遺言は無効になってしまいます。そのため、「もし母が先に亡くなった場合は、弟に相続させる」といった形で、次の候補者を指定しておくことが大切です。

【2】夫婦間で全財産を相続させたいと考えている場合(特に子どもがいないケース)

次に、夫婦間で全財産を相続させたいと考えている場合(特に子どもがいない場合)です。

子どもがいないご夫婦が「全財産を妻(夫)に相続させる」と遺言を書いていても、配偶者が先に亡くなるとその遺言は無効になります。その後遺言者が亡くなった場合、財産はご自身の兄弟姉妹などの法定相続人へ渡ることになり、「妻の身内でお世話になった甥に譲りたい」といった希望が叶わなくなります。「妻が先に死亡した場合は、甥の〇〇に相続させる」などと予備的遺言を定めておけば、ご自身の財産の行方を最後までしっかりコントロールできます。

【3】法定相続人以外の人(孫や息子の妻、友人など)に財産を遺贈したい場合

次に、法定相続人以外の人(孫や息子の妻、友人など)に財産を遺贈したい場合です。

法定相続人ではない方に財産を渡したい場合、その方が先に亡くなってしまうと、財産は本来の法定相続人に渡ってしまいます。「お世話になった友人に渡したい」というご自身の強い思いを実現するためにも、「万一友人が死亡していたときは、〇〇団体へ寄付する」といった備えをしておくことで、本来の相続人に財産を引き継がせないことができます。

【4】財産を譲る相手に子供(代襲相続人)がいない場合

次に、財産を譲る相手に子供(代襲相続人)がいない場合です。

通常、相続人が先に亡くなっていても、その人に子供がいれば代わりに相続(代襲相続)することがあります。しかし、財産を譲る予定の相手に子供がいない場合、その財産は他の相続人全員で分けることになり、遺言者の意図しない結果を招きかねません。あらかじめ次の受取人を決めておくことで、ご自身の望む通りに財産の行方をコントロールできます。

【5】認知症などのリスクに備え、遺言書の書き直しを避けたい場合

次に、認知症などのリスクに備え、遺言書の書き直しを避けたい場合です。

遺言書が法的に有効であるためには、遺言書を作るときに遺言者に遺言能力(判断能力)が備わっていることが必要です。したがって、将来、遺言者が認知症などで判断能力を失ってしまった場合、遺言書を新しく書き直すことができなくなってしまいます。その間に財産を引き継ぐ予定の相手が亡くなってしまうと、対応する術がありません。将来、判断能力が落ちそうで不安な場合は、判断能力がしっかりしている今のうちに予備的遺言を盛り込んでおくことが大切です。

【ケース別】予備的遺言の具体的な文例

予備的遺言を法的に有効なものにするためには、正確な表現で書くことが大切です。ここでは、実務でよく使われる3つのケース別に、そのまま参考にできる具体的な文例と書き方のポイントをご紹介します。ご自身の状況に近いものを確認してみてください。

【文例1】妻が先に亡くなった場合、長男に相続させるケース

第〇条 遺言者は、遺言者の有するすべての財産を、遺言者の妻〇〇(昭和〇年〇月〇日生)に相続させる。
第〇条 遺言者は、妻〇〇が遺言者より先にまたは同時に死亡したときは、前条の財産を、長男〇〇(平成〇年〇月〇日生)に相続させる。
付言事項 長男〇〇には、母である妻〇〇の今後の生活の安定を第一に考え、本遺言の内容を理解し、遺留分の請求をしないことを望みます。

ここでのポイントは「先にまたは同時に死亡したとき」という表現を用いることです。不慮の事故などで夫婦が同時に亡くなった場合、法律上は互いに相続することができず、妻への遺言は無効となってしまいます。仮に、長男以外にも子がおり、予備的遺言を設けていなかった場合は、子同士で遺産分割協議が必要になります。しかし、「同時に」という文言を入れて予備的遺言をしておくことで、遺産分割協議を経ることなく長男にのみ財産を引き継がせることができます。

【文例2】お世話になった友人(第三者)が先に亡くなった場合、別の人に遺贈するケース

第〇条 遺言者は、遺言者の有する別紙財産目録記載の〇〇の財産を、友人〇〇(昭和〇年〇月〇日生、住所:〇〇県〇〇市…)に遺贈する。
第〇条 遺言者は、友人〇〇が遺言者より先にまたは同時に死亡したときは、前条の財産を、甥の〇〇(平成〇年〇月〇日生)に遺贈する。

法定相続人以外の人(友人やお世話になった人など)に財産を渡す「遺贈」の場合、予備的遺言は特に重要です。なぜなら、受遺者(財産を受け取るはずだった人)が先に亡くなると遺贈は無効となり、その財産は本来の法定相続人に流れてしまうからです。相続人には代襲相続がありますが、遺贈にはこれが適用されません。「自分の財産を親族以外の人に託したい」という強い思いがある場合は、予備的遺言で次の受取人まで指定しおくとよいでしょう。また、遺贈は受遺者が受け取りを負担に感じて「放棄」してしまうケースもあります。そうした放棄のリスクに備える意味でも予備的遺言は有効です。

【文例3】相続人が誰もいなくなった場合に備え、団体等に寄付するケース

第〇条 遺言者は、遺言者の有するすべての財産を、長男〇〇(平成〇年〇月〇日生)に相続させる。
第〇条 遺言者は、長男〇〇が遺言者より先にまたは同時に死亡したときは、前条の財産を、公益財団法人日本赤十字社(または〇〇市など)に遺贈する。

身寄りが少なく、唯一の相続人である子どもや兄弟姉妹が先に亡くなってしまうと、相続人が誰もいない「相続人不存在」の状態になる可能性があります。この場合、特別な事情がない限り、最終的に財産は国庫(国)に帰属することになります。自分が築いた財産をただ国に納めるのではなく、社会貢献のために役立てたいとお考えの場合は、慈善団体やNPO法人、自治体などへの寄付(遺贈)を予備的遺言として定めておくのがおすすめです。寄付先の正式名称は正確に記載するよう注意しましょう。

予備的遺言を作成する際の注意点

予備的遺言は万が一の事態に備えるために有効な遺言ですが、書き方を間違えると無効になったり、かえって親族間のトラブルを招いたりするリスクがあります。ここでは、予備的遺言を遺言書に盛り込む際に押さえておきたい4つの注意点について解説します。

【1】遺留分(いりゅうぶん)に配慮する

まず、遺留分に配慮することです。

遺留分とは、一定の法定相続人に法律上最低限保障されている財産の取得割合のことです。予備的遺言で「誰に財産を譲るか」をあらかじめ指定する際も、他の相続人の遺留分を大きく侵害するような内容だと、将来的に「遺留分侵害額請求」などのトラブルに発展する可能性があります。たとえば「妻が死亡した場合は、全財産を長男に相続させる」といったケース(【文例1】のケース)では、他の兄弟の遺留分に配慮し、代償金を用意しておくか、付言事項で遺言者の思いを丁寧に書き添えるなどの対応をしておくことが重要です。

【2】「後継ぎ遺贈」にならないように注意

次に、「後継ぎ遺贈」にならないように注意することです。

予備的遺言はあくまで「財産を受け取る予定の人が、遺言者より先(または同時)に亡くなった場合」の備えです。これに対し、「まず妻に相続させ、妻が亡くなった後はその財産を長男に譲る」というように、一度誰かが相続した後の財産の行方まで連続して指定することを「後継ぎ遺贈」と呼びます。現在、この後継ぎ遺贈には有効説と無効説の考え方がありますが、いずれにせよ、無効とされる可能性は残っています。予備的遺言を盛り込むときは、「後継ぎ遺贈」と解釈されないよう細心の注意を払いましょう。また、何世代にもわたる承継者を指定したいときは、家族信託の利用を検討しましょう。

【3】遺言執行者を指定しておく

次に、遺言執行者を指定しておくことです。

遺言執行者とは、遺言の内容を具体的に実現するための手続き(名義変更や預金の解約など)を単独で行う権限を持つ人のことです。予備的遺言によって、元々の予定とは異なる人物(甥や友人など)や団体が財産を受け取ることになった場合、他の親族との関係性が薄く、手続きが難航するケースが少なくありません。あらかじめ行政書士などの専門家を遺言執行者として指定しておけば、万が一予備的遺言が発動する事態になっても、よりスムーズに遺産の引き継ぎを完了させることができます。

【4】公正証書で遺言書を作成する

次に、公正証書で遺言書を作成することです。

予備的遺言は、「もし〇〇が先に死亡した場合は~」といった複雑な条件を含むため、ご自身で手書きする「自筆証書遺言」では、法的に無効となる表現になってしまう可能性があります。この点、公正証書遺言は法律のプロである公証人が作成するため、複雑な条件を遺言書に盛り込む場合でも、不備のない遺言書を作ってくれます。文章の組み立て方が複雑になる予備的遺言だからこそ、ご自身だけで悩まず、専門家のサポートを受けながら公正証書遺言の形で作成することをおすすめします。