親の借金も相続される?マイナス財産の調査方法と相続放棄の注意点

借金も相続の対象になる

相続と聞くと、預貯金や不動産といった「プラスの財産」の相続をイメージする方が多いかもしれません。しかし、法律上は借金や未払金などの「マイナスの財産」も相続の対象となります。相続される主なマイナスの財産には、以下のようなものがあります。

  • 銀行や消費者金融からの借入金・ローン
  • クレジットカードの未払金
  • 住民税、固定資産税などの税金や健康保険料などの滞納金
  • 家賃や医療費の未払金
  • 保証債務・連帯保証債務(※見落としがち)

被相続人(故人)がお亡くなりになった後は被相続人の相続財産(遺産)の調査を行い、プラスの財産、マイナスの財産を把握します。その上で、これらを相続するかしないかを判断する必要があります。判断の方法については後ほど解説します。

相続人が複数の場合の借金の引き継ぎ方

相続人が複数いる場合、借金などの「マイナスの財産」はどのように引き継がれるのでしょうか。結論から言うと、預貯金などのように遺産分割協議で分けるのではなく、原則として「法定相続分に応じて自動的に分割されて引き継がれる」ことになります。

たとえば、亡くなった親に300万円の借金があり、子ども3人(長男、次男、三男)が相続人の場合、特別な手続きをしなくても、各自が法定相続分(この場合は3分の1ずつ)である100万円ずつの返済義務を背負うことになります。

⚠️ 遺産分割協議での取り決めは「債権者」には通用しない
ここで非常によくある間違いが、「長男が実家を相続する代わりに、親の借金もすべて長男が引き受ける」と相続人間で合意(遺産分割協議)をしてしまうケースです。相続人間でそのような取り決めをすること自体は問題ありません。しかし、この取り決めをお金の貸主である金融機関等の債権者に主張することはできません。
なぜなら、債権者の同意なしに借金の負担者を勝手に変えられてしまうと、引き受けた1人に支払い能力がなかった場合に債権者が回収できず、債権者が大きな不利益を被るためです。相続人間でどのような合意をしようとも、債権者は各相続人に対して「あなたの法定相続分の借金を返済してください」と請求することができます。

💡確実な解決策は?
もし、特定の相続人1人に借金を一本化したい場合は、債権者の同意を得て法的な手続き(免責的債務引受など)を適正に行う必要があります。「口約束で他の相続人が払うと言ってくれたが、後から自分に督促状が来ないか不安」「そもそも親の借金問題に一切巻き込まれたくない」という場合は、自身の身を守るためにも、後述する「相続放棄」を検討するのが最も確実な方法といえます。

借金の調査方法

被相続人が借金を抱えていたかわからない、何らかの借金を抱えていることはわかるもののいくら抱えていたのか詳細には把握しきれていない、などという場合は借金の調査をしなければなりません。借金を調査する方法としては、主に以下の5つの方法が考えられます。

自宅に残された資料や郵便物を確認する

まず、被相続人の自宅に残された遺品から借金の手がかりを探すことが考えられます。

金銭消費貸借契約書、クレジットカードの利用明細書、ATMの振込明細や振込カードなどがないかを確認します。また、債権者や裁判所、役所から届いている督促状などの郵便物がないかも確認します。遺言書や生前に作成された財産目録が残されている場合は、そこにマイナスの財産が記載されていることもあります。

預貯金通帳や取引履歴を確認する

次に、預貯金通帳を一行ずつ確認し、毎月定期的な引き落としや振込みの記録がないかをチェックすることが考えられます。

これらは借金やクレジットカードの返済である可能性があります。通帳を紛失している場合や、ネットバンクを利用していて履歴が見られない場合は、金融機関に対して取引履歴の開示請求を行って確認します。当該請求を行う場合は、死亡日を基準とする残高証明書の請求もあわせて行うとよいでしょう。

不動産の登記簿謄本(登記事項証明書)を確認する

次に、被相続人が不動産を持っていた場合には、法務局から登記簿謄本(登記事項証明書)を取得してその内容をチェックする方法が考えられます。

被相続人が金融機関から借金をしている場合、ほとんどのケースで不動産に抵当権などの担保権が設定されています。担保権は登記簿謄本の「乙区」という欄に書かれており、その欄を見れば借入先(抵当権者)や借金の金額(債権額)などを知ることができます。また、税金が滞納されているときは、不動産に差し押さえの登記が入っているため、そこから税金の滞納の事実を知ることができます。滞納の事実がわかったら直接役所に詳細を問い合わせてみましょう。

信用情報機関に照会をかける

次に、これまで解説してきた方法で被相続人の借金のことがわからない場合は、信用情報機関に対して照会を行うことが考えられます。信用情報は秘匿性の高い個人情報ですが、相続人であれば照会することができます。

回答からは借入の有無や契約内容、支払状況などを確認できます。借入先に応じて、以下の3つの機関に照会することができます。照会の方法については各機関のホームページなどでご確認ください。

  • 全国銀行個人信用情報センター(KSC・全銀協): 主に銀行や信用金庫、農協からの借金
  • 株式会社CIC: 主にクレジットカード会社や信販会社からの借金
  • 株式会社日本信用情報機構(JICC): 主に消費者金融やクレジットカード会社からの借金

保証債務の有無を確認する

最後に、見落としがちで最も注意が必要なのが「保証債務(保証人・連帯保証人になっているか)」の確認です。

保証債務は、主債務者(本来の借主)の返済が滞らない限り、保証人・連帯保証人となっている被相続人宛てに請求が来ないという性質の債務です。そのため、信用情報機関への照会や預貯金通帳の履歴からでは把握しにくいという特徴があります。

確認方法としては、自宅に保管されている金銭消費貸借契約書や保証契約書などの書類を念入りに探すのが基本となります。また、被相続人が会社経営者や役員であった場合は、自社の借入に対して個人保証をしている可能性があります。会社の決算書や契約書を確認したり、顧問税理士や取引先の金融機関に直接問い合わせてみるとよいでしょう。

借金が発覚!相続人が取れる「3つの選択肢」

相続財産の調査の結果、相続人がとれる手段(相続するかしないかの判断方法)としては以下の3つ選択肢があります。なお、以下のいずれかの判断は、原則として、相続人が被相続人が亡くなったこと、かつ、自己が被相続人の相続人となることを知ったときから3か月間の熟慮期間内に行う必要があります。

単純承認

単純承認とは、被相続人の相続財産を無条件で相続する意思表示のことです。意思表示とはいいますが、限定承認、相続放棄と異なり、特別な手続きは必要ありません。なお、意思表示をしなくても以下の行為があれば単純承認したものとみなされます。これを法定単純承認といいます。

  • 相続財産の処分
  • 熟慮期間の経過
  • 限定承認・相続放棄後の相続財産の隠匿など

💡これをやったら相続放棄できない!「法定単純承認」に要注意
熟慮期間中に、「遺産に手をつけてしまう」と、相続を承認した(単純承認)とみなされ、相続放棄  ができなくなってしまいます。 これを「法定単純承認」と呼びます。

【やってはいけないNG行動の例】

  • 亡くなった親の預貯金を引き出し、自分の生活費に使ってしまった
  • 親の自動車や不動産を売却した、名義変更した
  • 親の賃貸アパートを解約し、部屋の遺品を勝手に処分した
  • 親の財産をわざと隠したり、財産目録に嘘を記載した

※なお、親の預金から「社会通念上相当と認められる範囲の葬儀費用」を支払うことは、例外的に単純承認に当たらないとされるケースが多いですが、判断が難しいため事前に専門家に確認することをおすすめします。

限定承認

限定承認とは、相続によって得た財産の範囲内でのみ、借金等を返済すべきことを留保して承認することです。プラスの財産が多ければ相続するが、マイナスの財産が多い場合は相続しないというものです。 一見便利に見えますが、「相続人全員で手続きしなければならない」「家庭裁判所での手続きが非常に複雑で時間がかかる」といった理由から、この方法が選択されることは極めて稀です。

相続放棄

相続放棄とは、被相続人の相続財産を一切相続しないという意思表示です。相続放棄をすると借金などのマイナスの財産のほか、預貯金などのプラスの財産も相続しなくなります。マイナスの財産がプラスの財産を上回る、いわゆる債務超過の場合になされることが多いですが、状況により、プラスの財産が上回る場合でも選択されることがあります。

借金を理由に相続放棄する場合の注意点

借金を理由とした相続放棄を検討する場合、いくつか押さえておくべきポイントがあります。これらを知らずに行動してしまうと、「借金を背負わざるを得なくなった」「親族間で大きなトラブルになった」という事態になりかねないため注意が必要です。

遺産には絶対に手をつけない

前述の「単純承認」の項目でも触れましたが、最も注意すべきは「相続財産に手をつけると相続放棄ができなくなる」という点です。

亡くなった親の預金を引き出して自分の生活費に充てる、親名義の車を売却する、賃貸アパートの遺品を勝手に処分する、などといった行為は相続財産を相続する意思がある(法定単純承認)とみなされ、借金も相続することになってしまいます。借金から逃れるためには、「プラスの財産も含めて一切相続財産には手をつけない」のが鉄則です。

3ヶ月以内の熟慮期間に注意する

次に、相続放棄は、原則として、3か月の熟慮期間内に行わなければならないことです。

「親の借金の調査に時間がかかっている」「何から手をつければいいかわからない」と放置していると、あっという間に期限が過ぎてしまいます。期限を経過すると相続を承認したものとみなされ(法定単純承認)、相続放棄できなくなります。もし3ヶ月以内に借金の全容を把握できない場合は、期限が切れる前に家庭裁判所へ「熟慮期間の伸長(延長)」を申し立てる必要があります。

次順位の相続人に借金が移る

最後に、相続放棄した場合は、次順位の相続人に相続権が移ることです。

第1順位の子(や子の代襲相続人)が相続放棄した場合は第2順位の直系尊属(親、祖父母など)に、直系尊属がいない場合や直系尊属が相続放棄した場合は第3順位の兄弟姉妹(や兄弟姉妹の代襲相続人)に相続権が移ります。被相続人に借金があって相続放棄した場合は次順位の相続人にその借金が移り、債権者からの督促などを受けることになります。

自身が相続放棄する(あるいは、した)場合、相続権が移る次順位の相続人に相続放棄する(した)ことを伝える法律上の義務はありません。しかし、道義上の責任として、借金を理由に相続放棄する予定であること、それによって相続権が移り借金を負う可能性があることをあらかじめ伝えておき、実際にした場合には相続放棄の手続きが完了したことを伝えた方が親切だと思います。