葬儀費用は誰が払う?相続財産から払う際の注意点と相続放棄への影響


保有資格:R7司法書士試験合格者(2026年中に司法書士事務所を開業予定)、行政書士、ファイナンシャルプランナー(2級・AFP未登録)
取扱予定業務:遺産承継(預貯金、相続登記など)・生前対策(遺言、任意後見、信託など)・民事裁判・離婚
葬儀費用とは
葬儀とは、亡くなった方の冥福を祈り、遺族や親しい方が死者を葬るための一連の儀式のことです。一般的には「通夜→葬式→告別式→火葬→納骨」という流れで進むことが多いと思われます。
葬儀費用とはこれら一連の儀式にかかる費用のことで、内訳としては、
①葬儀そのものにかかる費用
②接待にかかる費用
③宗教者にかかる費用
の3つにわけることができます。
葬儀費用の内訳
①葬儀そのものにかかる費用
→ご遺体の搬送費、斎場・火葬場の利用料、物品(祭壇・棺・遺影など)費 など
②接待にかかる費用
→飲食費、会葬返し・香典返しなどの返礼品代 など
③宗教者にかかる費用
→お布施代、寺院の利用料 など
葬儀費用の相場
葬儀費用は葬儀の形式(一般葬、家族葬、一日葬、直葬など)や規模などによって異なります。
| 形式 | 特徴 | 規模 | 費用 |
| 一般葬 | 親族のほか、故人と親しい人も参列する | 中~大 | 約200万円 |
| 家族葬 | 親族だけで行う | 小 | 約40万円~150万円 |
| 一日葬 | 通夜を行わず、葬儀~火葬までを一日で行う | 小~中 | 約30万円~50万円 |
| 直葬 | 火葬のみ行う | 小 | 約10万円~40万円 |
なお、オプション(湯灌、エンバーミング、高品質や棺・骨壺など)を追加する場合は追加費用が発生します。また、上記の葬儀費用に含まれるのは「葬儀費用とは」で解説した①と②の費用だけで③の費用は含まれていません。③の費用は数万円、場合によっては数十万円かかることもあります。
葬儀費用は誰が払う?
では、こうした葬儀費用は誰が払うべきなのでしょうか?
葬儀費用は相続財産ではない
まず、確認しておかなければいけないことは、
葬儀費用は相続財産ではない
ということです。
相続財産とは、故人がお亡くなりになるときまでに故人が取得(故人に発生)した財産(不動産、預貯金、借金など)です。一方、故人がお亡くなりになった後に取得した財産は相続財産ではありません。葬儀費用は故人がお亡くなりになった後に発生する費用であるため、相続財産ではないのです。
相続財産はいったんは故人の相続人の共有財産となります。その後、相続人同士でどの財産をどんな割合でわけるかを話し合って決めます。この話し合いを遺産分割協議といいます。
一方、葬儀費用は相続財産ではないことから、基本的には葬儀費用について遺産分割協議をする必要はないということになります。そこで、葬儀費用について誰がいくら負担すべきかが問題となります。
あわせて読みたい
過去の裁判例
この点については、次の四つの考え方があります。
①喪主負担説 :葬儀費用は葬儀を主宰した喪主が負担すべきとする説
②相続人負担説 :葬儀費用は相続人で共同して負担すべきとする説
③相続財産負担説:葬儀費用は相続財産(被相続人の遺産)から出してよいとする説
④慣習・条理説 :葬儀費用の負担は慣習・条理により決するべきとする説
葬儀費用の負担を巡って争われた裁判では、①の説を採用した裁判例(名古屋高判平成24年3月29日など)、②の説を採用した裁判例(東京高決昭和30年9月5日)、③の説を採用した裁判例(東京地判平成24年5月29日など)、④の説を採用した裁判例(甲府地判昭和31年5月29日など)があります。
①の説によれば、葬儀費用は喪主が負担すべきで、他の相続人に負担を求めることはできないことになります。一方、②の説によれば、葬儀費用は喪主のみならず他の相続人にも負担を求めることができます。また、相続財産はいったんは相続人の共有財産となりますから、③の説によれば、葬儀費用は相続人全員で負担すべきということになります。
なお、現在のところ、どの説を採用すべきという確定した結論が出ているわけではありません。
葬儀費用の負担方法
とはいえ、葬儀費用は故人がお亡くなりになってから1週間から10日程度で葬儀社に払わなければならず、葬儀費用の負担を巡って相続人同士で話し合っている暇などないのが現実です。そこで、実際には、葬儀社に葬儀費用を払う当初は
①喪主等の特定の人が自分の財産から払う
②故人の預貯金を管理している人が故人の預貯金から払う
のいずれかの方法をとることが多いと思われます。
なお、喪主に誰がなるべきかについても法的な決まりはありません。慣例的には「①遺言で指定された人→②故人の配偶者→③長男→④次男以降の子→⑤長女→次女以降の子→⑥故人の両親→⑦故人の兄弟」の順で決められることが多いですが、慣例にとらわれることなく話し合いで決めてもよいでしょう。一人では負担となる場合は二人設けることも考えられます。
①喪主等の特定の人が自分の財産から払う
まず、①の方法ですが、この方法をとっても他の相続人の同意を得ることができれば、他の相続人にも葬儀費用の負担を求めることはできます。
他の相続人の同意を得るには、故人がお亡くなりになる前に、他の相続人と葬儀の内容や葬儀費用・負担割合についてきちんと話し合っておくことが理想です。
話し合いをしていなかった場合は、できる限り、他の相続人とも葬儀の情報を共有し、葬儀費用の内訳や金額がわかる資料をとっておきましょう。資料は後の話し合いで使います。
話し合いで葬儀費用の負担について合意できたら、あとでトラブルとなることを避けるために、合意できた内容を遺産分割協議書に書いておきましょう。
なお、喪主に葬儀費用の負担能力がない場合は、喪主とは別に「施主」を設け、施主が葬儀費用を負担することも考えられます。
あわせて読みたい
②故人の預貯金を管理している人が故人の預貯金から払う
金融機関が故人の死亡を知り口座を凍結するまでにはタイムラグがあり、その間に、相続人が故人の預貯金を引き出すことができてしまいます。実際にも、故人の預貯金を管理していた相続人が故人の預貯金を葬儀費用の支払いに充てるため、故人の預貯金を引き出す方もおられます。
もっとも、故人の預貯金は相続人の共有財産となる相続財産です。一方で、葬儀費用は相続財産ではないため、当然には他の相続人に負担を求めることはできません。そうした中、たとえ葬儀費用に充てるためであったとしても、一部の相続人が故人の預貯金を引き出すことには以下のリスクを伴います。
- 他の相続人から使い込みの疑いを持たれる
- 相続放棄できない
他の相続人から使い込みの疑いを持たれると返還請求を受けたり、関係が悪化して以降の相続手続きが難航してしまう可能性があります。
また、いったん相続財産に手をつけると相続を承認したものとみなされ、相続放棄できなくなる可能性があることにも注意が必要です。
あわせて読みたい
故人の預貯金から葬儀費用を支払う場合の対策
前述のように、故人の預貯金を引き出すことには一定のリスクを伴います。とはいっても、様々な事情から、すでに預貯金を引き出してしまった、引き出さざるをえないという方もおられるでしょう。そこで、以下では、前述したリスクを回避するための対策について解説します。
相続人全員の同意を得てから引き出す
まず、相続人全員の同意を得てから引き出すことです。
故人の預貯金は相続人の共有財産ですから、相続人全員から同意を得て引き出すことが基本的な対応となります。なお、他の相続人と意思疎通がとれないからといって無断で引き出すと、あとで発覚したときに大きなトラブルとなる可能性があります。他の相続人との関係性も見極めた上で、故人の預貯金を引き出すかどうかを決めた方がよいでしょう。
使途を葬儀費用に限定する
次に、使途を葬儀費用に限定することです。
故人の預貯金から葬儀費用を払ったとしても相続を承認したことにはならず、あとで相続放棄することができます。もっとも、葬儀費用と一言でいってもその範囲は広く、冒頭の「葬儀費用とは」で示した費用以外にも、
- 初七日や四十九日などの法要にかかる費用
- 墓や仏壇の購入費用
など、様々な費用がかかります。葬儀費用の範囲が曖昧だと、あとで相続人間でトラブルとなる可能性があります。どこまでの費用を故人の預貯金で払うのかきちんと話し合っておくとよいでしょう。
また、葬儀費用の金額にも注意が必要です。葬祭社に払う費用や仏壇の金額等があまりにも高い場合は相続を承認したものとみなされたり、他の相続人の同意を得られない可能性もあります。
領収証などの書類を保管しておく
次に、領収証などの書類を保管しておくことです。
事後的に他の相続人の同意を得る場合に、他の相続人が最も気にすることが故人の預貯金を「何に、いくら使ったのか」ということです。葬儀費用に充てる額が多ければ多いほど、相続人が手にする金額は減るわけですからこうした感情をもつことはある意味当然といえます。
そのため、あとで他の相続人に「何に、いくら使ったのか」についてきちんと説明できるよう、客観的な裏付けがとれる資料をとっておくことがとても大切です。領収証などを発行してくれない費用が発生したときは、手書きのメモでもよいので記録を残しておきましょう。手書きのメモを残す際は、『いつ(支払年月日)』『誰に(寺院名や僧侶の氏名)』『いくら(金額)』『何のために(お布施、戒名料として等)』を明確に記載しておきましょう。
なお、葬儀費用は相続税の加算対象となる相続財産から差し引くことができ、結果として、相続税が安くなる可能性があります。相続税を申告する際も領収証などの書類が必要となります。
故人の口座が凍結されたら?
故人の預貯金を引き出せるのは故人の口座が凍結されるまでです。では、故人の口座が凍結されてしまったら故人の預貯金を引き出すことはできないのでしょうか?
この点に関し、令和元年7月1日から、凍結されている口座であっても預貯金を引き出すことができる「仮払い制度」が始まっています。万が一、故人の口座が凍結されてしまった場合はこの制度を使うことも検討してみてもよいでしょう。
この制度(金融機関の窓口での仮払い制度)を利用すれば、家庭裁判所での面倒な手続きを経ることなく、各金融機関の窓口へ直接請求するだけで一定額を引き出すことができます。
制度が始まる前までは、凍結された口座の預貯金の払い戻しを受けるには、遺産分割協議等の相続手続きを経る必要がありました。しかし、この制度が始まってからは、相続手続きを経る前に預貯金を引き出すことができるようになりました。
もっとも、一人の相続人が引き出すことができる金額は
故人の死亡時の預貯金残高×3分の1×引き出す相続人の法定相続分(ただし、同一金融機関からの引き出しは150万円が上限)
という上限が設定されています。
引き出した金額はのちの遺産分割の際、あらかじめ引き継いだものとして扱われます。つまり、引き出した金額分だけ、遺産分割で受け取るお金は少なくなります。
また、お金の使い道によっては相続放棄できなくなったり、引き出したこと自体から他の相続人とトラブルとなる可能性もあるため、制度を利用するかどうかは慎重に検討する必要があります。
葬儀費用のトラブルを避けるための対策
ここまで見てきておわかりいただけるように、葬儀費用は相続のトラブルの火種にもなりかねません。もっとも、葬儀費用でトラブルとなることは誰も望んではいないことでしょう。そこで、ここからは葬儀費用でのトラブルを避けるために、あらかじめとっておくべき対策について解説したいと思います。
エンディングノートで意思表示
まず、本人(故人)がエンディングノートに葬儀に関することを書き残しておくことです。葬儀の形式(一般葬・家族葬・一日葬・直葬)・規模・場所、葬儀の予算、費用の原資(預貯金、生命保険など)、菩提寺の有無のほか、喪主、葬儀に呼びたい人やその連絡先など、具体的に書き残しておくとよいでしょう。
なお、遺言書に書き残すことも考えられますが、遺言書はすぐに内容を見ることができないという点がデメリットです。葬儀については、故人が亡くなった後すぐに決めなければならない関係上、葬儀に関してはエンディングノートに書き残しておいた方がよいかもしれません。
保険金を活用する
次に、保険金を活用することです。一つは生命保険に加入し、万が一のことがあった場合に特定の相続人が死亡保険金を受け取れるようにしておくことです。また、生命保険への加入が難しい場合は、葬儀に特化した葬儀保険に加入する選択もあります。
現在、未加入の場合、ご高齢だと加入できないのではないかと心配されるかもしれませんが、ご高齢でも加入できる保険はあります。喪主の援助をしたい、現在の預貯金だけでは葬儀費用を賄えるか不安という場合は一度加入を検討してみてもよいでしょう。
相続人間で話し合っておく
次に、相続人間で話し合っておくことです。前述したとおり、本人がエンディングノートに書き残すなどして生前にきちんと意思表示しておくことが理想ですが、高齢や認知能力の低下等によりご自身で意思表示することが難しい方もおられると思います。
そうした場合は残された人が葬儀の形式等についてしっかり話し合って決めておくことが大切です。特に、形式・規模・予算、費用の負担割合(誰がいくら負担するのか)については揉めやすいため、しっかり話し合って決めておきましょう。
葬儀費用Q&A
最後に、葬儀費用でよくある疑問について解説します。
香典は誰のものですか?
この点についても様々な考え方がありますが、一般的に、香典は喪主への贈与と考えられています。これは、香典が葬儀を執り行う喪主の経済的負担を和らげる意味で贈られるものだからです。もっとも、故人の預貯金で葬儀費用を賄えない場合は、まずは香典で充当し、それでも足りない場合は相続人で負担し合うのが通常です。
故人の預貯金で葬儀費用を払っても相続放棄できますか?
預貯金などの相続財産に手をつけてしまうと単純承認したものとみなされ、相続放棄できなくなるのが原則です。もっとも、葬儀は人生最後のいわば慣例的に執り行われる儀式であることから、葬儀費用のための引き出しであったとしても相続放棄できないとすることは酷です。そのため、常識の範囲内の葬儀費用のための引き出しであれば単純承認したものとはみなされず、相続放棄することはできます。
ただし、あくまで葬儀費用は「常識の範囲内」であることが必要です。常識からかけ離れた高額な葬儀費用のために引き出した場合、葬儀費用以外(仏壇や墓地の購入費、初七日や四十九日などの法要にかかる費用など)のために引き出し場合は単純承認したものとみなされ、相続放棄できなくなる可能性があるため注意が必要です。なお、香典は故人がお亡くなりになった後に相続人が受け取るお金であるため相続財産ではなく、相続放棄したとしても受け取ることができます。
相続税の計算において葬儀費用はどのように取り扱われますか?
葬儀費用は相続税の課税対象となる「相続財産」から差し引く(控除する)ことができます。相続財産の額が大きければ大きいほど相続税は高くなりますから、その相続財産から控除できる額が大きければ大きいほど相続税は安くなります。もっとも、相続税の計算における葬儀費用の範囲には注意が必要です。
冒頭で解説した①の費用や、③の費用(お布施や戒名料など)は原則として控除対象になります。一方、②の接待費用のうち通夜・告別式の飲食代は控除できますが、香典返しは対象外です。また、初七日・四十九日などの法要にかかる費用や、墓地・仏壇の購入費用も控除対象には含まれません。
葬儀費用の負担を少しでも減らせる公的な制度はありますか?
はい、故人が加入していた健康保険から給付金を受け取れる場合があります。具体的には、加入していた保険の種類によって以下の給付金が用意されています。
- 国民健康保険・後期高齢者医療制度に加入していた場合
「葬祭費」として、喪主(または葬儀を行った方)に対して支給されます。金額は自治体によって異なりますが、概ね3万円〜7万円程度です。 - 健康保険(社会保険・共済組合など)に加入していた場合
「埋葬料(または埋葬費)」として、一律5万円が支給されます。
【注意点】
これらの給付金は、待っていても自動的に振り込まれるわけではありません。葬儀が終わったあとに、市区町村の役口や年金事務所、健康保険組合などへご自身で申請手続きを行う必要があります。 また、申請期限は原則として2年(「葬祭費」は葬儀を執り行った日の翌日から2年、「埋葬料」は死亡した日の翌日から2年、「埋葬費」は埋葬を執り行った日の翌日から2年)と決められているため、忘れずに手続きを行いましょう。

保有資格:R7司法書士試験合格者(2026年中に司法書士事務所を開業予定)、行政書士、ファイナンシャルプランナー(2級・AFP未登録)
取扱予定業務:遺産承継(預貯金、相続登記など)・生前対策(遺言、任意後見、信託など)・民事裁判・離婚

