相続人の一人が遺産分割協議に応じない!協議を放置するリスクと対処法

相続人の一人が遺産分割協議に応じないとどうなる?

遺産分割協議とは、亡くなった方(被相続人)の相続財産を「誰が・どのくらい相続するか」を決める話し合いのことです。この話し合いには相続人全員の関与が必要です。なお、相続放棄した人、欠格事由に該当する人、廃除された人、相続分を他人に渡した人は相続人ではないため関与させる必要はありません。

一人でも欠けた状態で話し合いをして合意に至ったとしてもその遺産分割協議は無効で、その際に作った遺産分割協議書を不動産の名義変更(相続登記)や預貯金の解約といった手続きに使うことができません。つまり、一人が遺産分割協議に応じないだけで、相続手続き全体がストップしてしまうのです。

遺産分割協議を放置するリスク

遺産分割協議をいつまでにやらなければならないという決まりはありません。しかし、相続人の一人が遺産分割協議に応じてくれないからといって遺産分割協議を放置していると、以下のリスクを負ってしまう可能性があります。

預貯金の引き出しや不動産の売却ができない

遺産分割協議を成立させない限り、被相続人の相続財産は「相続人全員の共有財産」のままとなります。そのため、相続人一人の判断で勝手に手続きを進めることができません。

  • 預貯金:金融機関に被相続人の死亡の事実が伝わると口座は凍結されます。遺産分割協議が成立せない限り、預貯金の解約や名義変更ができません。なお、一定額を引き出せる「仮払い制度」はありますが、上限があります。
  • 不動産:不動産が共有状態であるため、たとえば、空き家になった実家を売却したり、長期間にわたり賃貸に出したり、担保に入れてお金を借りたりするためには、相続人全員の同意が必要となります。

相続登記の義務化による「過料」の対象になる

2024年(令和6年)4月1日より、不動産の相続登記(名義変更)が義務化されました。 被相続人が亡くなったこと及び不動産を相続したことを知った日から「3年以内」に正当な理由なく名義変更を行わない場合、10万円以下の過料を科される可能性があります。不動産の名義を特定の相続人に変更するには、あらかじめ遺産分割協議をして引き継ぐ人を決めておく必要があります。この遺産分割協議をせずに相続登記を放置して3年を過ぎてしまうと、過料を科される可能性があります。

⚠他の相続人の借金による「差し押さえ」のリスク
相続登記を放置するリスクとして、過料のほかに「身に覚えがないのに実家の持分が差し押さえられる」などというリスクがあります。
たとえば、相続人の弟に多額の借金があったとします。相続登記を放置していると、お金を貸している金融機関などは、あなた(兄)に無断で勝手に「法定相続分(例:兄弟で半分ずつ)」で相続登記を行い、借金をしている弟の持分を差し押さえてしまいます。
最悪、その持分が競売にかけられ、見ず知らずの不動産業者などに買い取られてしまいます。つまり、あなた(兄)は見ず知らずの他人と実家を共有しなければならない状態に置かれてしまいます。

特例が使えず、相続税が高額になる

相続税の申告と納税の期限は「相続の開始を知った日の翌日から10ヶ月以内」です。遺産分割協議がまとまらない場合、一旦「法定相続分」で財産を分けたと仮定して申告・納税を行わなければなりません。ただ、この状態だと「配偶者の税額軽減(最低1億6,000万円まで非課税)」や「小規模宅地等の特例(土地の評価額が最大80%減)」といった節税特例を使うことができません。結果として、本来払わなくてもよい多額の税金を一時的に納める必要が生じます。

「数次相続」が発生し、相続関係が複雑になる

遺産分割協議を終える前に相続人の誰かが亡くなってしまうと、その亡くなった方の相続人(配偶者や子供など)が新たに協議に加わることになります(数次相続)。 世代が下るごとに権利を持つ人がねずみ算式に増え、面識のない人同士で遺産分割協議をしなければならなくなります。こうなると協議をまとめるのは至難の業となり、解決までに莫大な時間と費用がかかってしまいます。

親族間の関係が悪化する

時間が経てば経つほど、「誰が財産を管理しているのか」「勝手に使い込んでいるのではないか」といった疑心暗鬼が生まれやすくなります。初期の段階であれば冷静に協議できたはずのものが、遺産分割協議を放置したことで修復不可能な感情的な対立に発展してしまう可能性があります。

相続人が認知症や行方不明となるリスクがある

遺産分割協議を長期間放置していると、一部の相続人が認知症になったり、行方不明(音信不通)となる可能性も考えられます。遺産分割協議は必ず相続人全員が参加する必要がありますが、認知症や行方不明となった相続人がいる場合は、以下のとおり、それらの人の代わりとなって協議に参加する人を選んでもらう手続きが必要となります。遺産分割協議には、以下の人が参加することになります。

  • 認知症で判断能力が欠如した相続人のため→「成年後見人」選任の申立て
  • 行方不明となった相続人のため     →「不在者財産管理人」選任の申立て

これらの手続きには数ヶ月単位の期間と、数十万円規模の費用がかかることも少なくありません。相続人の中に高齢の方がいる場合は特に注意が必要です。将来の無用なトラブルや費用等の負担の増加を防ぐためにも、相続が発生した際は遺産分割協議を放置せず、早めに着手することが大切です。

【状況別】遺産分割協議に応じない場合の対処法

遺産分割協議が進まない場合、「なぜ相手が応じてくれないのか」によって取るべき対処法が全く異なります。ここでは、よくある4つのケースに分けて具体的な解決策を解説します。

状況A:疎遠・面識がない

長年にわたり交流がなく疎遠な相続人がいたり、戸籍調査の結果、思いもよらぬ相続人が判明するケースは少なくありません。このような場合、いきなり電話等しても遺産分割協議に応じてくれる可能性は低く、工夫が必要です。

具体的には、まずは手紙を送って通知するのが基本となります。手紙では、被相続人死亡の事実や相手が相続人であること、相手の相続分、遺産の状況、相続意思があるかどうかの確認などを簡潔に記載します。手紙にはできる限り、財産目録などの遺産を特定できる資料を添付するとより親切です。

手紙への返信などで無事に相続の意思が確認できた場合、まずは連絡をくれたことへの感謝を丁寧に伝えましょう。その上で、今後のやり取りに使う連絡手段(電話、メール、LINEなど)や、連絡がつきやすい曜日・時間帯を確認します。

いきなり具体的な話を進めるのではなく、まずは相手の事情を気遣うなど、少しずつ信頼関係を築くことが大切です。良好なコミュニケーションが取れるようになった段階で、遺産分割協議書の素案(ドラフト)を提示し、徐々に具体的な話し合いへと移行していくことで、その後の手続きがスムーズに進みます。

状況B:単なる無視、不仲で話し合いを拒否している

状況Aのように丁寧な手紙を送っても無視され続ける場合や、元々不仲で話し合いに応じてくれないパターンが「状況B」です。「親の介護をした自分が多くもらうべきだ」「生前贈与を受けていたはずだ」といった不満が根底にあるケースも多く、実務上最も解決が難しいパターンのひとつです。

この場合も、直接電話をとるのではなく、まずは普通郵便で手紙を送り、それでも無視し続けられるのであれば内容証明郵便で手紙を送るという方法も考えられます。もっとも、内容証明郵便で送ることで相手の態度を硬化させる可能性もあるため、手紙の内容には細心の注意を払う必要があります。

直接やりとりしても事態の進展がみられない場合は、弁護士を代理人として間に入れることを検討しましょう(ケースによっては、やりとりする前から弁護士に相談・依頼すべきケースもあります)。当事者同士では話し合いにならなくても、弁護士が窓口となることで、相手も「これ以上放置すると裁判になるかもしれない」とプレッシャーを感じ、冷静に協議に応じるケースも少なくありません。

弁護士からの連絡にも一切応じない、あるいは対立が深すぎて遺産分割協議を成立させる見込みがつかない場合は、家庭裁判所へ「遺産分割調停」を申し立てます(あるいは、調停の申し立てを匂わせつつ、遺産分割協議を続ける方法もあります)。調停では、裁判所の調停委員が双方の言い分を個別に聞き取りながら解決点を探るため、相手と直接顔を合わせる必要がなく、感情的にならずに法的な基準に基づいた解決が期待できます。

状況C:行方不明で連絡が取れない

相続人が行方不明でどこにいるかわからないという場合でも、その相続人を外して遺産分割協議を進めることはできません。まずは行方不明となっている相続人の本籍地の役所で「戸籍の附票」を取得し、現住所を調べて手紙を送りましょう。

調査を尽くしても居場所が判明しない場合は、家庭裁判所に「不在者財産管理人」の選任を申し立てます。選任された管理人(弁護士・司法書士などの専門家)が家庭裁判書の許可を受けた上で、本人の代わりに遺産分割協議に参加します。管理人は、原則として行方不明者の法定相続分を確保するよう努めてきます。

また、生死不明の状態が長期間(通常は7年以上)続いている場合は、家庭裁判所へ「失踪宣告」を申し立てることもできます。失踪宣告が認められると法律上死亡したものとみなされ、行方不明者の相続人を交えて協議を行うことになります。

状況D:認知症などで判断能力がない

相続人の中に重度の認知症などで判断能力がなく、遺産分割協議の内容を正しく理解できない方がいる場合、そのまま当事者として遺産分割協議に参加させて協議を成立させても法律上は無効です。

この場合、家庭裁判所に「成年後見人等」の選任を申し立てるのが原則的な対処法です。選任された成年後見人が、本人の財産を守る立場で代わりに遺産分割協議に参加することになります。ただし、注意が必要なケースもあります。

たとえば、「認知症の母と長男」が共に相続人であり、長男が母の成年後見人になっている場合です。この場合、長男が自分と母の両方の立場で協議することは「利益相反」となるため認められません。このようなケースでは、家庭裁判所に別途「特別代理人」の選任を申し立てるか、あらかじめ「後見監督人」が選任されていればその方が代理人となって協議を進めることになります。

状況E:未成年の相続人がいる

相続人の中に未成年者がいる場合、未成年者は単独で遺産分割協議といった法律行為を行うことができません。通常は親権者が代理人となりますが、「夫が亡くなり、妻と未成年の子どもが相続人になる」というケースでは注意が必要です。

この場合、親(妻)と子どもの両方が相続人となり「利益がぶつかり合う関係(利益相反)」になるため、母親は子どもの代理人となることができません。そのため、家庭裁判所に「特別代理人」の選任を申し立てる必要があります。

申し立ての際は、未成年者が複数いる場合は子ども一人につきそれぞれ別の特別代理人を立てる必要があります。また、あらかじめ「遺産分割協議書(案)」を裁判所へ提出する必要があり、未成年者の取り分が原則として法定相続文を下回らない(不利益にならない)内容になっていることが求められます。

遺産分割協議を円滑に進めるための工夫

これまで手紙の無視や話し合いの拒否を続けていた相続人が、ついに遺産分割協議に応じてくれるようになった場合、まずは大きな第一歩を踏み出したと言えます。しかし、遺産分割協議はここからが本番です。せっかく遺産分割協議のテーブルについてもらえたにもかかわらず、その後の進め方を間違えると、相手は再び態度を硬化させ、遺産分割協議が振り出しに戻ってしまう可能性があります。ここでは、ようやく遺産分割協議に応じた相手と、最後までトラブルなく遺産分割協議を円滑に進めるための工夫を解説します。

過去の経緯を責めず、感謝を伝える

まず、大切なことは「感情的なしこりを持ち込まない」ことです。「なぜ今まで連絡を無視していたのか」といった過去に対する非難は絶対に避けましょう。相手も、迷いや不安を抱えながら重い腰を上げて連絡をしてきたはずです。

まずは「お忙しい中、ご連絡いただきありがとうございます」「手続きにご協力いただき感謝いたします」などと、大人の対応で丁寧に接することが、今後の遺産分割協議をスムーズにする秘訣となります。

遺産の情報を共有し、「後から見つかった場合」のルールも決める

遺産分割協議に応じたものの、相手はまだ「一部の財産を隠しているのではないか」という警戒心を抱いている可能性もあります。この疑心暗鬼を解くためには、預貯金の残高証明書や不動産の登記事項証明書など、客観的な裏付け資料を添えた「財産目録」を提示しましょう。マイナスの財産(借金など)も包み隠さず開示します。

また、実務上は「もし後から新たな財産が見つかった場合はどう分けるか」という文言をあらかじめ遺産分割協議書に盛り込んでおくことが重要です 。これにより、「隠し財産があってもずるいことはしません」という誠意を示すことにもつながります。

ゼロからの話し合いではなく「たたき台(素案)」を提示する

いきなり「遺産をどう分けましょうか?」と白紙の状態で意見を求めると、相手は戸惑い、過大な要求をしてくることも考えられます。遺産分割協議を円滑に進めるためには、こちらから具体的な「遺産分割協議書の素案」を提示して検討してもらうとよいでしょう。

法的に平等な「法定相続分」での分割案をベースにしつつ、「不動産を売却して現金で分ける案(換価分割)」や「長男が不動産を相続する代わりに代償金を支払う案(代償分割)」など複数の選択肢を用意すると、相手も納得感を得やすくなります。代償分割を提案する場合は、「いつ・どうやって支払うか」を遺産分割協議書に明記すると相手の不安を取り除けます。

「財産に関心がない」という場合は、相続放棄や相続分の譲渡を提案する

連絡を無視している相続人の中には、悪意があるわけではなく「自分は遺産をもらうつもりがなく、手続きに関わるのが面倒くさいだけ」という思いをお持ちの方も少なくありません。 もし相手が遺産そのものに関心がないようであれば、遺産分割協議の当事者から外れることができる「相続放棄」や「相続分の譲渡」を提案するのも有効な手段です。

  • 相続放棄: 家庭裁判所で手続きを行うことで、初めから相続人ではなかったことになります。(※ただし「相続開始を知った時から3ヶ月以内」という期限がある点に注意が必要です)
  • 相続分の譲渡: 自分の相続分を他人に譲り渡すことです。家庭裁判所を通さず、当事者間の合意と書類(相続分譲渡証明書)のやり取りだけで済むため、期限を過ぎてしまっている場合にも使いやすい方法です。

ただし、無理強いすると「騙されているのでは?」と警戒されるため、あくまで「こういう選択肢もありますよ」と控えめに提案することが大切です。

専門家を介して「事務的」かつ「確実」に進める

当事者同士のやり取りは、感情が再燃しやすくなります。そこでおすすめなのが、専門家を間に入れることです。個人的な対立構造から抜け出し、「事務的な法的手続き」として粛々と進めることができます。

相手とのやりとりを含めてすべてを任せたい場合は弁護士に、相手とのやりとりは自分でやるものの専門家のアドバイスを受けながら手続きを進めたいときは司法書士に依頼するなど、ご自身の状況に合わせて依頼先を選びましょう。