相続分の譲渡とは?【譲渡証明書などの見本付き】

「遺産分割協議でもめていて、もう関わりたくない…」
「自分の相続分を、お世話になった特定の親族に譲りたい」
このようなお悩みを解決する有効な手段として「相続分の譲渡」という制度があります。
相続分の譲渡とは、自分が受け取るはずの遺産の割合(持分)を、他の相続人や第三者に譲り渡す手続きのことです。遺産分割協議から離脱できるなどのメリットがある一方で、「被相続人の借金は手放せない」「税金が高額になるケースがある」といった注意点もあります。
本記事では、相続分の譲渡の基礎知識から、相続放棄・相続分の放棄との違い、相続分の譲渡の具体的手続き、相続分の譲渡で発生する税金についてわかりやすく解説します。

保有資格:R7司法書士試験合格者(2026年中に司法書士事務所を開業予定)、行政書士、ファイナンシャルプランナー(2級・AFP未登録)
取扱予定業務:遺産承継(預貯金、相続登記など)・生前対策(遺言、任意後見、信託など)・民事裁判・離婚
相続分の譲渡とは?
相続分の譲渡とは、相続人が自己の相続分を他人に譲り渡すことです。
なお、相続分とは亡くなった方(被相続人)の相続財産を引き継ぐ割合のことです。被相続人が遺言書を作っており、遺言書の中で各相続人の相続分を指定していた場合は、基本的にはそれに従います。一方で、被相続人が遺言書を作っていなかった場合は、民法という法律が定めた相続分(法定相続分)に従います。
相続分の譲渡とは、たとえば、「預金1,000万円の2分の1を譲渡する」というときの「2分の1」のような個々の相続財産に対する割合ではなく、各相続人に割り当てられる相続分全体の譲渡です。つまり、相続人という地位そのものを譲渡することを意味します。
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譲渡の相手
相続分は、相続人の一人に対して譲渡することも、全く関係のない第三者に対して譲渡することもできます。
譲渡の期限
法律上の決まりはありません。しかし、相続分の譲渡は遺産分割の話がまとまるまでには行う必要があります。遺産分割の話がまとまった後は、個々の相続財産に対する持ち主が確定し、相続人としての地位そのものも消滅してしまうためです。
Q:遺産分割調停中でも相続分の放棄はできますか?
A. はい、可能です。調停中ということは、遺産分割の話がまとまる前といえるためです。
譲渡の効果
相続分の譲渡を受けた人は相続人としての地位を取得します。相続人が譲渡を受けた場合は、自ら持っていた相続分と譲渡を受けた相続分を合わせた相続分を、遺産分割協議で主張できます。相続人以外の人が譲渡を受けた場合でも、相続人として遺産分割協議に参加することができます。一方、相続分を譲渡した人は、相続人としての地位を失うため、遺産分割協議に参加する必要がなくなります。
相続分の譲渡と相続放棄・相続分の放棄との違い
相続分の譲渡と似た制度として「相続放棄」・「相続分の放棄」があります。いずれも共通していることは、いずれも相続人としての地位を失うということです。その結果、遺産分割協議に参加する必要がなくなります。しかし、相続分の譲渡と相続放棄、相続分の譲渡と相続分の放棄には以下の違いがあります。
相続分の譲渡と相続放棄との違い
相続分の譲渡と相続放棄の違いで注意が必要なのは「期限」と「借金」についてです。
相続分の譲渡は遺産分割協議が成立するまでできますが、相続放棄は、原則として、被相続人が亡くなったこと及び自己が相続人となったことを知ってから3か月までが期限です。3か月を経過すると相続放棄できなくなる可能性があります。
また、被相続人が抱えていた借金については相続分の譲渡をしたとしても免れることができません。被相続人が亡くなった時点で、借金は相続人に引き継がれてしまっているからです。
一方、相続放棄とは、被相続人が亡くなった時点ですでに相続人でなかったことにするものです。そのため、被相続人が亡くなっても、借金は相続人には引き継がれません。被相続人の借金を免れたい場合は相続放棄を選択すべきです。
| 比較項目 | 相続分の譲渡 | 相続放棄 |
| 期限 | 遺産分割協議が成立するまで | 被相続人の死亡及び相続人となったことを知ってから3ヶ月以内 |
| 手続き場所 | 当事者間の合意 | 家庭裁判所への申述が必要 |
| 相続分の移転先 | 指定した特定の相手 | 次順位の相続人、または他の同順位の相続人に移る |
| 借金 | 原則、免れることができない | 免れることができる |
相続分の譲渡と相続分の放棄との違い
相続分の譲渡と相続分の放棄の決定的な違いは、相続分の譲渡は相続分を譲渡できる相手と指定できるのに対し、相続分の放棄は指定できないことです。相続分を譲渡された相手は譲渡された相続分すべてを取得できます。一方、相続分の放棄の場合は、放棄した相続人以外の相続人が法定相続分の割合に従って相続分を取得します。
なお、相続分の譲渡と同じく、相続分の放棄をしたとしても借金を免れることができない点も注意が必要です。
| 比較項目 | 相続分の譲渡 | 相続分の放棄 |
| 意味 | 相続分を特定の誰かに譲渡すること | 相続分を単に手放すこと |
| 持分の移転先 | 指定した特定の相手(特定の共同相続人や第三者) | 他の共同相続人全員(法定相続分の割合に応じて自動分配) |
| 遺産分割協議 | 参加不要になる(代わりに譲受人が参加する) | 参加不要になる |
| 借金 | 免れることができない | 免れることができない |
| 手続き | 譲渡する側と受ける側の合意(「相続分譲渡証明書」等を作成) | 他の共同相続人への単独の意思表示(「相続分放棄書」等を作成) |
| 手続きの期限 | 遺産分割協議が成立するまで | 遺産分割協議が成立するまで |
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相続分の譲渡のメリット
相続分の譲渡のメリットは以下のとおりです。
【1】遺産分割のトラブルから離脱できる
相続人同士が遺産分割をめぐって揉めている場合、自分の相続分を他の相続人に譲渡してしまえば、以後の遺産分割協議に参加する必要がなくなります。精神的な負担を減らし、遺産分割をめぐるトラブルから早期に抜け出したい方にとって有効な手段です。
【2】特定の相手に遺産を譲ることができる
「親の面倒をよく見てくれた兄の子(甥や姪)に財産を渡したい」「内縁の妻に財産を残したい」といった場合、相続分を譲渡することで、本来の相続人以外の親族や特定の第三者へピンポイントで財産を引き継がせることができます。
【3】早期に現金化することができる
遺産分割協議が長引きそうな場合、自身の相続分を「有償」で他の相続人や第三者に譲渡(売却)すれば、不動産の売却や預金の解約を待たずに、先行して早期に現金を手にすることができます。
相続分の譲渡のデメリット
一方、相続分の譲渡には以下のデメリットもあります。
【1】第三者へ譲渡した場合の「取戻権」
相続人以外の「第三者」に相続分を譲渡された場合、他の相続人は見ず知らずの他人が遺産分割協議に加わることになり、不利益を被るおそれがあります。そこで、他の相続人は、譲渡のときから1ヶ月以内であれば、その価額と費用を償還(弁償)して、第三者から相続分を取り戻すことができます。
【2】登記費用が高額になる可能性がある
相続人以外の「第三者」や、相続人が死亡してさらに相続が発生している「二次相続の相続人」へ相続分を譲渡するような場合、いったん相続人全員名義での登記(①)を経たうえで個別の持分移転登記(②)を行わなければならないことがあります。この場合、登記申請の件数は2件となることから、その分、費用(司法書士への報酬や登録免許税など)が高額となる可能性があります。
【3】贈与税・譲渡所得税が課税される可能性がある
相続人以外の「第三者」に対して相続分の譲渡を行った場合、無償で譲渡すると譲り受けた側に「贈与税」が課税され、有償で譲渡すると譲り渡した側に「譲渡所得税」が課税される可能性があります。二次相続の相続人に対する譲渡も、第三者への譲渡と同様に取り扱われる可能性があるため注意が必要です。
相続分の譲渡の方法
相続分を譲渡する場合の具体的な方法と一般的な手順は以下のとおりです。相続放棄と異なり、家庭裁判所での手続きは必要ありませんが、後々の名義変更手続き(相続登記や預金解約など)をスムーズに行うために、書面の作成や実印の押印が重要になります。
【手順1】当事者間で話し合う
まずは、先ほど解説した相続分の譲渡のメリット・デメリットを踏まえた上で、相続分の譲渡を考えている相手(相続人か相続人以外の第三者か)や条件(無償譲渡か有償譲渡かなど)を考えます。
考えを固めたら相手に話し合いをもちかけ、条件について話し合います。話し合いの際は、相手にも相続分の譲渡のデメリット(特に税金面のデメリット)をきちんと伝えるようにしましょう。
【手順2】「相続分譲渡証明書」または「相続分譲渡契約書」を作成する
相手と相続分の譲渡で合意できたら、合意できた内容を書面にまとめます。作成する書面は「相続分譲渡証明書」または「相続分譲渡契約書(確認書)」のいずれかです。
相続分譲渡証明書
相続分譲渡証明書
令和〇年〇月〇日 〇〇〇〇(被相続人の氏名)(本籍 〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目〇番地)の死亡によって開始した相続における相続人である〇〇〇〇(譲渡人の氏名)は、その相続分全部を共同相続人〇〇〇〇(譲受人の氏名)に譲渡したことを証明します。
令和〇年〇月〇日
(譲渡人) 住所:〇〇〇〇
氏名:〇〇〇〇 印(実印)
【特徴・注意点】
・譲渡人のみ住所・氏名に署名し、押印します。
・印鑑は実印を押印し、印鑑証明書をあわせて準備します。
【用途】
・相続登記の申請で相続分の譲渡の証明が必要な場合はこの書面と印鑑登録証明書を提出すれば足ります。
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相続分譲渡契約書(確認書)
相続分譲渡契約書
〇〇(以下「甲」という。)は、令和〇年〇月〇日、〇〇(以下「乙」という。)に対し、両名の被相続人〇〇(令和〇年〇月〇日死亡。本籍・〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目〇番地)の相続に関し、甲の相続分全部を無償で(※有償の場合は「金〇万円で」)譲渡し、乙はこれを譲り受けた(譲渡したことを確認する)。
令和〇年〇月〇日
(譲渡人・甲) 住所:〇〇〇〇
氏名:〇〇〇〇 印(実印)
(譲受人・乙) 住所:〇〇〇〇
氏名:〇〇〇〇 印(実印)
相続分譲渡の対価に関する合意書
甲(譲渡人)と乙(譲受人)は、本日、甲乙間の令和〇年〇月〇日付相続分譲渡契約書における甲から乙に対する被相続人〇〇(以下「被相続人」という。)の遺産に対する相続分の譲渡(以下「本件相続分譲渡」という。)に関し、次のとおり譲渡の対価について合意する。
第1条(対価の確認)
乙は、甲に対し、本件相続分譲渡の対価として、金〇〇万円の支払義務があることを認める。
第2条(支払時期および支払方法)
乙は、甲に対し、被相続人の遺産の分割が成立し、乙による被相続人名義の〇〇銀行〇〇支店の預金口座(口座番号〇〇〇〇)の解約・払戻手続が完了した日から1か月以内に、前条の対価を甲が指定する次の口座宛振込の方法により支払う。ただし、振込手数料は乙の負担とする。
(指定口座の表示)
〇〇銀行 〇〇支店
普通預金
口座番号:〇〇〇〇〇〇〇
口座名義:甲(〇〇 〇〇)
第3条(清算条項)
甲と乙は、甲乙間には、本件相続分譲渡の対価に関し、本合意書に定めるほか何らの債権債務がないことを相互に確認する。
本合意成立の証として本合意書2通を作成し、甲乙各自署捺印のうえ、各1通を保有する。
令和〇年〇月〇日
(譲受人・乙) 住所:〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目〇番〇号 氏名:〇〇 〇〇 印(実印)
(譲渡人・甲) 住所:〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目〇番〇号 氏名:〇〇 〇〇 印(実印)
【特徴・注意点】
・譲渡人のほか譲受人の住所・氏名の署名、押印も必要です。
・印鑑は実印を押印し、印鑑証明書をあわせて準備することは証明書と同様です。
・有償で譲渡する場合には、相続分譲渡契約書の中に代金の支払い条件を書き込むか、「相続分譲渡の対価に関する合意書」を作成します。
【用途】
・銀行や証券会社などの金融機関で預貯金の解約や払戻しを行うに提出を求められます。相続分の譲渡が予想されるときは、あらかじめ金融機関に「証明書」・「契約書」のいずれの書面が必要か確認しておくか、手間はかかりますが、はじめから契約書を準備しておく方が安心です。
【手順3】他の相続人へ通知する
相続分の譲渡が行われると、譲渡人は以後の遺産分割の手続きから離脱し、譲渡を受けた人が遺産分割協議に参加することになります。そのため、遺産分割協議をこれから行う場合には、他の相続人に対して「自分の相続分を〇〇へ譲渡した」という事実を伝えておく必要があります。また、前述した「取戻権」を行使するか否かの判断の機会を与える意味でも通知は必要です。
相続分の譲渡と税務上の注意点
これまでも税金の注意点については少し触れましたが、大事なことですので、ここであらためて解説したいと思います。相続分譲渡では、「誰に」、「どうやって(無償か有償か)」譲渡したかによってかかる税金が異なります。ここでは一般的な解説にとどめますが、個別具体的なケースにおける判断については、税理士に相談されることをおすすめします。
他の相続人に「無償」で譲渡
この場合、譲渡人には特に税金はかかりません。一方、譲受人は、自分がもともと持っていた相続分に、譲り受けた相続分を合算した財産を取得したものとして「相続税」が課税されます。実務上は、遺産分割協議の中で特定の相続人に財産を多く取得させる「代償分割」に近い扱いとなります。
他の相続人に「有償」で譲渡
この場合、譲渡人は、受け取った代金がその財産の取得費などを上回って利益が出た場合に「譲渡所得税」が課税される可能性があります。一方、譲受人は、取得した財産の価額から支払った代金を差し引いた残額に対して「相続税」が課税されます。
第三者に「無償」で譲渡
税務上、最も注意が必要なパターンです。 この場合、譲渡人は遺産を受け取っていなくても、いったん自分が相続したものを第三者に贈与したとみなされ、譲渡した部分に対して「相続税」が課税されます。さらに、譲り受人には、相続税ではなく「贈与税」が課税されます。贈与税は基礎控除額(年間110万円)を超えると税率が高く設定されているため、多額の税負担が発生するリスクがあります。
第三者に「有償」で譲渡
この場合、譲渡人には、受け取った対価に対して「譲渡所得税」が課税される可能性があります。一方、譲受人は、適正な対価を支払って財産を買い取っている状態となるため、贈与税などの税金はかかりません(※ただし、不動産が含まれる場合は別途、不動産取得税や登録免許税などがかかる場合があります)。
【相続分の譲渡と税金】
| 譲渡の形 | 譲渡人(渡す人)の税金 | 譲受人(もらう人)の税金 |
| 他の相続人に「無償」で譲渡 | 負担なし | 相続税(譲り受けた分も合算) |
| 他の相続人に「有償」で譲渡 | 譲渡所得税(代金が取得費等を超える場合) | 相続税(取得した相続分から支払代金を控除した残額に対して) |
| 第三者に「無償」で譲渡 | 相続税(譲渡した部分に対して) | 贈与税(※高額になるリスクあり) |
| 第三者に「有償」で譲渡 | 譲渡所得税(有償譲渡の対価に対して) | 負担なし(対価を支払っているため贈与税はかからない) |

保有資格:R7司法書士試験合格者(2026年中に司法書士事務所を開業予定)、行政書士、ファイナンシャルプランナー(2級・AFP未登録)
取扱予定業務:遺産承継(預貯金、相続登記など)・生前対策(遺言、任意後見、信託など)・民事裁判・離婚

