贈与税額控除とは?相続税との二重課税を防ぐ仕組みをわかりやすく解説

贈与税額控除とは?

贈与税額控除とは、被相続人(亡くなった方)から生前に贈与を受け、すでに贈与税を納めていた場合に、その支払済みの贈与税額を「相続税」から差し引くことができる制度です。

生前の一定期間に贈与された財産は、原則として相続税の課税対象となる相続財産に足し戻して相続税を計算するというルールがあります(生前贈与加算)。もし、贈与されたときに財産を受け取った人(受贈者)が「贈与税」を払っていたにもかかわらず、相続の際に「相続税」まで課せられてしまうと、一つの財産に2回も税金がかかる「二重課税」になってしまいます。これを防ぎ、税金の払いすぎを調整するのが贈与税額控除の役割です。

なお、贈与税額控除は各相続人の個別の相続税から直接金額を控除するという特徴があります。このような制度としてはほかにも、配偶者の税額軽減(いわゆる配偶者控除)、障害者控除、相次相続控除などがあります。贈与税額控除と配偶者の税額軽減は必ず申告が必要です。一方、障害者控除、相次相続控除は適用の結果、相続税が0円となる場合は申告が不要という違いがあります。

贈与税額控除と生前贈与加算の関係

贈与税額控除を正しく理解するためには、その大前提となる「生前贈与加算」の仕組みを知っておく必要があります。そもそも生前贈与加算というルールによって過去の贈与が相続財産に「足し戻される」ことがなければ、相続税と贈与税の二重課税は発生せず、贈与税額控除の出番もないからです。そこで、ここでは、生前贈与加算のルールと、近年の相続税対策に大きな影響を与えている重要なルール変更について詳しく解説します。

【1】生前贈与加算とは亡くなる前〇年間の贈与は相続財産に足し戻される制度

冒頭でも触れましたが、相続税には、亡くなる直前に贈与を行って相続税の税額を抑えようとする「駆け込み贈与」を防ぐための「生前贈与加算」というルールがあります。

具体的には、相続や遺贈で財産を取得した人が被相続人から死亡前の一定期間内に生前贈与を受けていた場合、その贈与財産を相続財産に「足し戻して」相続税を計算するというものです。

この足し戻しの期間は従来被相続人が亡くなる前「3年間」でしたが、改正により、令和6年(2024年)1月1日以降に行われた生前贈与から段階的に「最大7年間」へと延長されることになりました。

【2】令和6年以降のルール変更(3年→7年への延長)

このように、令和6年(2024年)1月1日以降に行われた生前贈与から加算期間が段階的に延び、令和13年(2031年)以降の相続では完全に「7年間」となります。

ただし、負担増に配慮した経過措置として、延長された4年間(死亡前3年超〜7年以内)に受けた贈与については、その合計額から100万円を控除した残額のみを足し戻せばよい緩和ルールが設けられています。

このルール変更により、死亡直前の駆け込み贈与による節税効果は薄れました。生前贈与を活用した相続対策を行う際は、これまで以上に早い時期から長期的な計画を立てて進めることが重要となります。

贈与税額控除の対象となるケース・ならないケース

贈与税額控除は、過去に贈与税を払っていれば誰でも自動的に適用されるわけではありません。ここでは、控除を適用するための「3つの必須条件」と、よく勘違いされやすい「対象外となるケース」について整理します。

【1】対象となる条件

贈与税額控除の適用を受けるためには以下の3つの条件をすべて満たす必要があります。

【条件1】相続や遺贈によって財産を取得していること

まず、相続や遺贈によって財産を取得していることが必要です。

贈与税額控除は相続税から過去に納めた贈与税を差し引く制度ですが、その相続税は相続や遺贈によって財産を取得した人にかかる税金だからです。相続税がかからない人には贈与税額控除を適用する必要はありません。

【条件2】生前贈与加算の対象となる贈与を受けていること

次に、過去に受けた贈与が「生前贈与加算」の対象になっていることが必要です。

被相続人が亡くなる前の一定期間(3年〜7年以内)に受けた生前贈与は、相続財産に足し戻して計算されます。この足し戻しによって初めて二重課税が生じるため、加算対象とならない昔の贈与などは控除の対象になりません。

【条件3】その生前贈与に対して「実際に贈与税を納付している」こと

最後に、その生前贈与に対して過去に贈与税を「実際に納付している」ことが必要です。

贈与税額控除は、あくまで二重に払ってしまった税金を清算するための仕組みです。そのため、贈与税の基礎控除額(110万円)以下の贈与や、特例の適用で贈与税が0円だった場合は、そもそも差し引くべき税金が存在しないため対象外となります。

【2】孫への贈与など、対象外になりやすいケース

次に、贈与税額控除の適用外となる主なケースは以下のとおりです。

【ケース1】財産を取得しない孫への贈与

まず、遺言による遺贈などがなく、今回の相続で財産を一切取得しない孫への生前贈与の場合です。

今回の相続で財産を受け取らない人はそもそも「生前贈与加算」の対象になりません(相続税を納める必要がありません)。そのため、仮に過去の贈与で贈与税を納めていたとしても、その税額を相続税から控除することはできません。孫への贈与を検討する際は、この点に注意が必要です。

【ケース2】相続放棄をした人

次に、相続放棄をした場合です。

相続放棄した人は相続人でなかったことになるため、相続税を納める必要がなくなります(ただし、死亡保険金などを受け取り、例外的に相続税が発生するケースは除きます)。そのため、過去に受けた贈与について自身が納めた贈与税があったとしても、ほかの親族などが負担する相続税から代わりに差し引くといった調整は一切できません。

【ケース3】非課税特例や基礎控除内の贈与

最後に、「住宅取得資金の非課税特例」や「教育資金の一括贈与特例」などを活用した場合や、年間110万円以下の基礎控除内で贈与が収まった場合です。

これらは特例などにより贈与税が非課税、あるいは税額が0円で済んでいるため、そもそも二重課税が起きておらず、差し引くべき贈与税額が存在しないため対象外となります。

贈与税額控除の控除額の計算方法と具体例

贈与税額控除の計算方法とルールは、生前贈与で「暦年課税」と「相続時精算課税」のどちらを適用していたかで大きく異なります。

【1】暦年課税の場合の計算方法

暦年課税とは、1月1日から12月31日までの1年間(暦年)に個人が受け取った贈与財産の合計額に対して、贈与税を計算する贈与税の原則的な課税方式です。

暦年課税の場合、被相続人が亡くなる前一定期間(3年〜7年以内)に受けた生前贈与が相続財産に足し戻され、その足し戻された財産に対して課された贈与税額を相続税から差し引きます。

ここで重要になるのが「按分計算」です。暦年課税の贈与税は、その年の「すべての受贈額」を合算して税率をかけます。もし同じ年に、被相続人(例:父)だけでなく、別の人(例:母)からも贈与を受けていた場合、支払った贈与税の全額が控除されるわけではありません。全体の贈与額のうち「被相続人からの贈与額が占める割合」を計算し、その割合に応じた贈与税額のみが控除対象となります。

また、相続税額から引ききれなかった贈与税があったとしても、差額が還付されることは一切ありません。あくまで相続税をゼロにするまでの控除にとどまります。

【具体例】暦年課税でのシミュレーション

【設例】

  • 相続人:長男
  • 相続開始の2年前の1年間に、以下の贈与を同時に受けていた
    ・被相続人(父)からの贈与:600万円
    ・母からの贈与:400万円
  • その年の贈与総額:1,000万円
  • 長男がその年に納付済みの贈与税総額:177万円(※特例税率で計算)
  • 今回の相続で算出された長男の相続税額(控除前):200万円

【ステップ1】控除できる贈与税額を「按分」して割り出す

暦年課税の贈与税は、その年の贈与「総額(1,000万円)」に対してまとめて計算されています。この177万円のうち、今回の相続税から差し引けるのは「亡くなった父からの贈与割合(全体の10分の6)」に対応する部分のみです。母からの贈与に対応する税金は控除できません。

  • 177万円(全体の贈与税) × { 600万円(父からの分) / 1,000万円(全体の贈与額) } = 106万2,000円

【ステップ2】算出された相続税額から差し引く

父からの贈与分(600万円)は生前贈与加算によって相続財産に足し戻され、長男の本来の相続税額(200万円)が算出されています。ここから、ステップ1で割り出した贈与税額を控除します。

  • 200万円(本来の相続税) - 106万2,000円(控除できる贈与税) = 93万8,000円

結果として、長男が最終的に納めるべき相続税額は93万8,000円となります。

なお、もし今回の控除前の相続税額が「80万円」だった場合、80万円 - 106万2,000円 = 0円となります。長男の納める相続税は0円になりますが、引ききれなかった差額の26万2,000円が手元に還付(返金)されることはありません。

【2】相続時精算課税の場合の計算方法

相続時精算課税制度は、原則として60歳以上の父母や祖父母から18歳以上の子や孫へ財産を贈与する際に選択できる贈与税の課税方式です。

相続時精算課税を選択した財産は、贈与からの経過年数に関わらず「全額」が相続財産に足し戻されます。この制度では、累計2,500万円の特別控除枠を超えた部分に対して一律20%の贈与税が課されますが、過去に納めたこの贈与税は、相続時に全額が相続税から控除されます。

暦年課税との決定的な違いは、控除しきれなかった贈与税がある場合、申告によって国から還付(返金)を受けられる点です。名称の通り、あくまで相続が発生したタイミングで最終的な税額を「精算」する仕組みだからです。なお、令和6年(2024年)以降は、精算課税にも「年110万円の基礎控除」が新設されました。この基礎控除枠内で受け取った贈与は足し戻しの対象外となり、そもそも贈与税も払っていないため、贈与税額控除の対象外となります。

【具体例】相続時精算課税でのシミュレーション

【設例】

  • 相続人:長女
  • 過去に精算課税を利用して父から3,500万円の贈与を受けた
  • 納付済みの贈与税額:200万円(※(3,500万円 - 特別控除2,500万円) × 20%)
  • 今回の相続で算出された長女の相続税額(控除前):150万円

【計算式】相続時精算課税で受け取った3,500万円が全額足し戻され、長女の相続税(150万円)が算出されます。ここから納付済みの贈与税全額を差し引きます。

  • 150万円(相続税) - 200万円(精算課税の贈与税) = △50万円(引ききれない差額)

長女の相続税額は0円になります。さらに、引ききれなかった50万円については、税務署へ相続税の申告手続きを行うことで指定の口座に還付(返金)されます。

申告時の手続きと注意点

冒頭でも述べたとおり、贈与税額控除の適用を受けるためには必ず相続税の申告手続きを行う必要があります。最後に、手続きの基本的な流れと必要書類、思わぬトラブルを防ぐための注意点を解説します。

【1】贈与税額控除を適用するための手続きと必要書類

本制度を適用するには、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内に、被相続人の住所地を管轄する税務署へ相続税の申告書を提出します。申告時には、主に以下の書類を準備・添付して提出する必要があります。

  • 相続税申告書(第14表、第4表の2など): 過去に生前贈与を受けた財産額を「第14表」に記載して相続財産に加算し、すでに納めた贈与税額を「第4表の2」に記載して相続税額から控除する計算を行います。
  • 過去の贈与税申告書の控え(写し):生前贈与を受けた当時に、税務署へ提出した贈与税申告書の控え(原本のコピー)が必要です。
  • 納付を確認できる書類:実際に贈与税を納めた実績を証明するため、贈与税の納付書の控えや決定通知書などを添付します。

このように「いつ・だれが・いくら贈与を受け、いくら納税したか」を証明できる書類を揃えることが手続きの第一歩となります。

【2】申告時に押さえておくべき3つの注意点

申告をする際の注意点は以下のとおりです。

【注意点①】控除の結果、税額が0円になっても申告が必須

贈与税額控除を適用した結果、最終的に納めるべき相続税額が0円になった場合でも、税務署への相続税申告は必要です。そもそも相続税の申告義務は、税額控除を適用する前の「正味の遺産額が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超えているか」で判定されるためです。「最終的に払う税金がないから」と無申告のまま放置すると、申告義務違反となり、のちに無申告加算税や延滞税などのペナルティが課されるリスクがあるため注意してください。

【注意点②】過去の申告書の控えを紛失した場合は早めの対応を

「昔の贈与税申告書の控えが見つからない」という場合、自身の過去の申告内容であれば、税務署の窓口で過去の申告書を無料で閲覧・写真撮影できる「申告書等閲覧サービス」が利用可能です。原本の写し(コピー)が欲しい場合は、郵送等で「保有個人情報開示請求」(有料)を行うこともできますが、書類が届くまでに1か月程度かかります。また、生前贈与加算は共同相続人全員の贈与状況を確認する必要があるため、自分以外の相続人が受けた生前贈与を調べる場合は、被相続人の住所地を管轄する税務署に対して「贈与税の申告内容の開示請求」を行う手続きもあります。相続が発生したら、速やかにこれらの手段で過去の贈与状況を確認しましょう。

【注意点③】過去に未申告だった贈与はそのままでは控除できない

過去に年間110万円を超える生前贈与を受けながら贈与税の申告・納付を行っていなかった場合、そのままでは贈与税額控除の対象になりません。過去の無申告分について期限後申告を行い、本来納めるべきだった贈与税(およびペナルティとなる加算税・延滞税)を正しく納付した上で、はじめて相続税からの控除が認められることになります。なお、贈与税の時効(原則6年、悪質な場合は7年)が過ぎている場合は期限経過後申告すらできなくなりますが、相続開始前7年以内の贈与であれば、相続税の持ち戻し(生前贈与加算)の対象にはなってしまうため、贈与税額控除なしで相続税だけが課税されてしまうため注意が必要です。