【徹底解説】相続時精算課税制度のデメリット・手続き・必要書類


保有資格:R7司法書士試験合格者(2026年中に司法書士事務所を開業予定)、行政書士、ファイナンシャルプランナー(2級・AFP未登録)
取扱予定業務:遺産承継(預貯金、相続登記など)・生前対策(遺言、任意後見、信託など)・民事裁判・離婚
相続時精算課税制度とは?
相続時精算課税制度は、原則60歳以上の親・祖父母から18歳以上の子・孫への贈与で選択できる贈与税の課税制度の一つです。
この課税制度を選択すると、年間110万円の基礎控除額のほか、累計2500万円までの贈与財産については贈与税がかかりません。しかし、贈与者が亡くなった後、その贈与財産は相続財産に持ち戻され、相続税としてまとめて精算されます。
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【特徴①】「110万円/年+2610万円/累計」までは非課税
相続時精算課税制度の特徴の1つ目は、年間110万円の基礎控除と累計2500万円の特別控除を組み合わせることで、多額の生前贈与を非課税で行える点です。
2024年の税制改正により、従来の累計2500万円の特別控除枠に加え、新たに「年間110万円」の基礎控除枠が新設されました。初年度であれば最大2610万円(特別控除2500万円+基礎控除110万円)まで贈与税をかけずに財産を移転できます。
さらに、この年間110万円以下の基礎控除部分については贈与税の申告が不要であり、将来贈与者が亡くなった際の相続財産にも加算(持ち戻し)されない点も大きなメリットです。税制改正により、より使い勝手がいい制度となりました。
【特徴②】贈与税の税率は一律20%
相続時精算課税制度の特徴の2つ目は、基礎控除額(110万円)と特別控除額(2,500万円)を超えた部分に対する贈与税の税率が一律20%になる点です。
贈与税=(課税価格-基礎控除額(110万円)-特別控除額(2500万円))×20%
あとで解説する「暦年課税」の場合、贈与額が大きくなるにつれて税率も段階的に上がり、最高で55%の累進課税が適用されます。しかし、相続時精算課税制度を選択した場合はどれほど多額の財産を贈与しても、枠を超えた分にかかる税率は一律20%で固定されます。
一時的に贈与税を納める必要は生じますが、高額な財産を一度に生前贈与したいケースでは、暦年課税よりも贈与時の税負担を大きく抑えられます。なお、ここで納付した贈与税は、将来の相続税の計算時に精算(控除)されます。
【特徴③】相続財産に加算されるが相続税の計算で精算される
相続時精算課税制度の特徴の3つ目は、制度を使って生前贈与された財産が将来の相続財産へ加算され、相続税として精算される点です。
本制度で贈与した財産(年間110万円の基礎控除を超える部分)は、贈与者の死亡時に相続財産に持ち戻されます(加算されます)。一見デメリットに感じますが、相続税には「3,000万円+600万円×法定相続人の数」という基礎控除枠があります。
そのため、加算後の正味の遺産額がこの基礎控除内に収まれば、相続税はかかりません。つまり、一般的なご家庭の多くにとって「贈与税も相続税もかからずに多額の財産を移転できる」という非常にメリットの大きい仕組みとなっているのです。
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【特徴④】加算される財産は「贈与時の時価」で計算される
相続時精算課税制度の特徴の4つ目は、将来の相続財産に加算される際の財産価値が「贈与時の時価」で固定される点です。
通常、相続税の計算対象となる財産は「故人が亡くなった時点の時価」で評価されます。しかし、本制度を利用して生前贈与した財産は、その後の値上がり・値下がりに関わらず「贈与した時点の価値」で相続財産に持ち戻されます。
したがって、将来的に価値が上がると予想される財産(成長が見込める株式や、値上がりしそうな不動産など)を贈与する場合に非常に有利です。値上がり分には相続税がかからないため、大きな節税効果が期待できます。一方、値下がりした場合は税負担が割高になる点には注意が必要です。
暦年課税との違い
贈与税の課税制度には、相続時精算課税のほかに暦年課税があります。暦年課税とは、1月1日から12月31日までの1年間(暦年)に受け取った贈与財産の課税価格に対して課税する制度です。両者の違いは以下のとおりです。
【1】対象者と手続き
まず、対象者の違いです。暦年課税は誰から誰へ贈与しても問題ありませんが、相続時精算課税制度は「60歳以上の父母・祖父母から18歳以上の子・孫へ」という制限があります。
また、手続きに違いがあります。暦年課税は年間110万円以下なら贈与税の申告が不要ですが、相続時精算課税は初回の贈与税申告時に税務署へ「選択届出書」を提出する必要があります。一度選択すると暦年課税に戻すことができません。
【2】非課税枠と税率
次に、非課税枠の違いです。暦年課税の枠は「年間110万円」のみですが、相続時精算課税制度にはさらに「累計2,500万円」の特別控除枠があり、多額の生前贈与を非課税で行えます。
また、税率が大きく違います。暦年課税は贈与額に応じて最高55%まで上がる累進税率ですが、相続時精算課税は一律20%に固定されます。そのため、まとまった財産を一度に渡したいという場合には贈与税の負担を大きく抑えることができます。
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【3】相続財産への持ち戻し財産の対象期間
次に、相続財産への持ち戻しの対象期間です。暦年課税で、将来の相続財産に持ち戻されるのは「相続開始前の一定期間(※段階的に3年から7年へ延長中)に行われた贈与」のみです。一方、相続時精算課税では、年間110万円の基礎控除を超えて贈与した財産は、何十年前の贈与であってもすべて相続財産に持ち戻されます。純粋な非課税ではなく「課税の先送り」となる点が大きな違いです。
| 比較項目 | 相続時精算課税 | 暦年課税 |
| 対象者 | 贈与者:60歳以上の父母・祖父母 受贈者:18歳以上の子・孫 | 制限なし |
| 税務署への申告 | 要 | 不要 ※基礎控除額内であれば |
| 非課税枠 | 年間110万円 + 累計2,500万円 | 年間110万円のみ |
| 税率 | 一律20% | 10%~最高55%(累進税率) |
| 持ち戻し財産の対象期間 | 制限なし(期間を問わず全て対象) | 相続開始前3~7年分のみ |
相続時精算課税制度のデメリット
相続時精算課税制度には【特徴①~④】で述べたメリットがある一方で以下のデメリットもあります。
【1】暦年課税に変更ができない
まず、一度この制度を選択すると、同じ贈与者からの贈与について途中で暦年課税へ変更できないことです。
将来の税制改正や家族状況の変化に応じた柔軟な節税対策が取りづらくなるため、将来的な見通しを十分立てた上で慎重に検討する必要があります。なお、暦年課税に変更できないのは「同じ贈与者」からの贈与であって、「違う贈与者」からの贈与では暦年課税を使うことはできます。
【2】土地の贈与で「小規模宅地等の特例」を使えない
次に、この制度を利用して土地を生前贈与すると「小規模宅地等の特例」を使えないことです。
小規模宅地等の特例とは、被相続人が住んでいた自宅や事業用の土地を相続や遺贈によって引き継ぐ際、一定の要件を満たせば評価額を最大80%減額できる税制上の優遇措置です。同特例はあくまで「相続」「遺贈」によって土地を引き継いだ場合に適用される特例です。生前贈与は取得原因が「贈与」のため、同特例を適用することができません。土地を生前贈与した結果、特例が使えず相続税が高くなってしまう可能性があるため、土地の贈与には十分な注意が必要です。
【3】贈与財産が値下がりすると税負担が割高になる
次に、贈与された財産が将来値下がりした場合、相続時の税負担が実態よりも割高になってしまうことです。
相続時精算課税制度では、相続財産へ持ち戻して精算する際の評価額が「贈与時の時価」で固定されます。そのため、贈与後に株式や不動産などの価値が下がっても、値下がり前の高い評価額(贈与時の時価)のまま相続税が計算されてしまいます。値上がりが見込める財産であれば低い評価額で計算するため節税効果が得られますが、将来的に価値が下がる財産に適用すると、相続で取得するよりも納める税金が多くなり、結果として損をする可能性があります。
【4】手続きの手間や将来の管理負担が増える
次に、相続時精算課税制度を適用する際や相続が発生したときに、税務手続きや書類の管理の手間がかかることです。
あとで解説するとおり、制度を適用するには、初回の贈与時に戸籍謄本などの添付書類を揃えて「相続時精算課税選択届出書」を税務署に提出しなければなりません。また、年間110万円を超える贈与を行った年はその都度申告が必要(超えない場合は不要)で、贈与契約書や領収書などの記録を将来の相続時まで長期間保存しておかなければなりません。将来の相続税申告の際にも過去の贈与履歴を正確に集計・精算しなければならない手間がかかります。
相続時精算課税と暦年課税、どっちを選ぶ?
生前贈与を検討する際、「相続時精算課税と暦年課税のどちらを選べばいいのか?」と悩む方は少なくありません。 結論から言うと、どちらを選ぶべきかは、「何を」「いくら」「どんな目的で」贈与するかによって異なります。ここでは本記事の主題である「相続時精算課税制度」の特性を踏まえ、それぞれの制度を選ぶべき具体的な基準を解説します。なお、選択に迷う場合は生前贈与に詳しい税理士に相談してみることをおすすめします。
【1】相続時精算課税制度が向いている人
相続時精算課税制度の特徴は「多額の財産を一度に非課税で渡せること」と「贈与時の時価で評価が固定されること」にありました。こうした相続時精算課税制度の特徴を最大限に活かすには、以下のような人がこの制度使うのに向いているといえます。
- 収益物件(賃貸アパートや駐車場など)を贈与したい人
家賃収入を生む不動産を早めに子へ贈与することで、その後の家賃収入は子のものとなります。親の手元に現金(相続財産)が蓄積し続けるのを防げるため、中長期的な相続税対策として非常に有効です。 - 将来値上がりが見込める財産(自社株や都市部の不動産など)を渡したい人
将来の相続時に持ち戻される財産の価値は「贈与時の時価」で固定されます。現在より将来の方が価値が上がると予想される資産を早めに贈与しておけば、値上がり分には相続税がかかりません。 - 住宅取得資金など、まとまった資金を今すぐ援助したい人
一度に数千万円規模の資金援助が必要な場合、暦年課税では多額の贈与税が発生してしまいます。本制度の「2,500万円の特別控除+110万円の基礎控除」をフル活用すれば、贈与時の税負担をゼロに抑えてスムーズな資金援助が可能です。
【2】暦年課税が向いている人
一方、以下のような人は、相続時精算課税制度を選ぶと結果的に損する(「贈与税~相続税」のトータルの税負担が重くなる)可能性が高いため、従来の「暦年課税」での贈与や相続での引き継ぎが推奨されます。
- 「小規模宅地等の特例」を使いたい実家の土地を贈与する人
デメリットでも解説した通り、本制度を使って土地を贈与すると最大80%の評価減ができる小規模宅地等の特例が使えません。実家の土地などは安易に生前贈与せず、相続で引き継ぐのがセオリーです。 - 建物や車など、将来的に価値が下がる財産を渡したい人
贈与時の高い時価のまま将来の相続税が計算されてしまうため、時間とともに価値が目減りする減価償却資産の贈与には本制度は不向きです。 - 孫へ毎年少しずつ現金を渡したい人
相続時精算課税制度を使って孫へ贈与した場合、将来の相続税精算時に孫が「相続税の2割加算」の対象となってしまう可能性があります。純粋な現金の分割贈与であれば、暦年課税の110万円枠を毎年コツコツ活用する方が安全かつ確実です。
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相続時精算課税制度の手続き
相続時精算課税制度で贈与することを決めることできたら、受贈者(贈与により財産を受け取る人)と贈与契約を結び、財産を引き渡し【1】、財産を引き渡した翌年の申告期限(2月1日から3月15日)までに税務署に申告する【2】、という流れとなります。
【1】贈与契約を締結する
贈与は「財産をあげます」「もらいます」と言って口頭だけで済ますこともできます。しかし、口頭だけだと、後で当事者間で「言った・言わない」のトラブルとなる可能性があります。また、税務署の税務調査を受けたときに、贈与の事実を証明しなければなりません。そこで、贈与を行うときはあらかじめ贈与契約書を作り、契約の際に受贈者と取り交わしておくことが鉄則となります。
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【2】税務署に申告する
贈与契約書を取り交わし、契約どおりに約束を履行したら、その翌年の2月1日から3月15日までに管轄の税務署に贈与税の申告をする必要があります。
①申告書類を準備する
贈与税の申告をするには以下の書類を準備します。
| 必要書類 | 提出が必要なケース・備考 | 入手先 |
| 贈与税の申告書(第1表・第2表) | 申告する全員(年間110万円を超える贈与があった年ごとに必要) | 税務署、国税庁ホームページ |
| 相続時精算課税選択届出書 | 初めてこの制度を利用する年のみ必要 | 税務署、国税庁ホームページ |
| 受贈者の戸籍謄本(または戸籍全部事項証明書) | 初めてこの制度を利用する年のみ必要。受贈者が18歳以上であり、贈与者の直系卑属(子や孫)であることを証明するために添付します。 | 本籍地の市区町村役場 |
| 本人確認書類(マイナンバーカード等)の写し | 申告の都度必要。マイナンバーカードがない場合は、通知カード(または住民票)+運転免許証などの身元確認書類が必要です。 | ご自分で用意 |
| 贈与契約書の写し(コピー) | 法律上の添付義務はありませんが、税務署へ贈与の実態を正確に証明するために添付を強く推奨します。 | ご自分で用意 |
②申告書類を管轄税務署に提出する
書類を準備できたら内容を確認の上、期限(贈与した翌年の2月1日から3月15日)までに書類を提出して申告します。また、贈与税の納税が必要な場合も期限内に行ってください。
贈与税の申告先は受贈者の住所地を管轄する税務署です。贈与者の住所地を管轄する税務署ではない点に注意が必要です。申告方法と納税方法は以下の表のとおりです。
| 申告方法 | 対応する主な納税方法 | 概要・注意点 |
| e-Tax(電子申告) | ダイレクト納付(口座引落) | 事前に口座を登録し、指定した期日に自動引き落とし(e-Tax専用) |
| インターネットバンキング | e-TaxやWebからPay-easy(ペイジー)を利用して納付 | |
| 共通(e-Tax・窓口・郵送) | クレジットカード納付 | 「国税クレジットカードお支払サイト」から納付(決済手数料が発生) |
| スマホアプリ納付 | 専用サイト経由でPayPay等を利用して納付(一度の手続きにつき30万円まで) | |
| コンビニ納付 | 納付用QRコード等を作成しコンビニのレジで納付(30万円以下限定) | |
| 窓口持参・郵送 | 金融機関・税務署での現金納付 | 窓口に「納付書」を添えて現金で直接納付 |
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相続時精算課税制度のQ&A
最後に、相続時精算課税制度でよくある疑問について回答します。
Q:相続時精算課税制度の非課税枠は受贈者の数によって変わりますか?
A:はい、変わります(受贈者の数が増えるほど、家族全体の非課税枠の合計額は増えます)。
相続時精算課税制度の特別控除枠(2,500万円)と基礎控除枠(年間110万円)は、「受贈者」ごとに適用されるためです。
たとえば、1人の親から2人の子ども(子A・子B)へ贈与する場合、子A・子Bそれぞれに2,500万円の特別控除と110万円の基礎控除が認められます。そのため、家族全体としては最大で合計5,220万円(初回)までの財産を非課税で贈与することができます。
ただし、1人の受贈者が1年間に使える基礎控除額は、贈与者が複数いても合計110万円が上限となる点にご注意ください。
Q:制度を適用したい年(贈与した年)に贈与者が亡くなった場合、制度を適用させることはできますか?
A:はい、適用可能です(贈与した年に贈与者が亡くなった場合でも制度を選択できます)。ただし、通常とは手続きが異なる点に注意が必要です。
贈与者が亡くなった場合、その年の贈与財産は自動的に相続税の計算対象に組み込まれるため、原則として「贈与税の申告」は不要となります。
しかし、制度を適用するには「相続時精算課税選択届出書」の提出が必須となります。通常の申告とは異なり、提出先は受贈者ではなく、亡くなった贈与者=被相続人の住所地を管轄する税務署となります。また、提出期限は「贈与の翌年3月15日」か「相続税の申告期限(死亡を知った日の翌日から10か月以内)」のいずれか早い日となるため注意が必要です。

保有資格:R7司法書士試験合格者(2026年中に司法書士事務所を開業予定)、行政書士、ファイナンシャルプランナー(2級・AFP未登録)
取扱予定業務:遺産承継(預貯金、相続登記など)・生前対策(遺言、任意後見、信託など)・民事裁判・離婚


