【相続税】障害者控除で0円なら申告不要?要件と注意点を徹底解説

ご家族に障害をお持ちの方がおり、将来の相続に不安を感じていませんか?相続税には、障害のある方の生活基盤を守るための「障害者控除」という相続税の負担を軽減する特例が用意されています。
この制度の最大のメリットは、障害者控除を適用した結果として相続税が0円になれば、原則として税務署への申告手続きが「不要」になるという点です。配偶者控除と違い、「相続税が0円になっても申告が必要」というルールではないため、手続きの手間等の負担を大きく減らすことができます。
本記事では、申告不要となるための障害者控除の4つの要件や、年齢ごとの控除額の計算方法、そして控除枠が余った場合に他の家族の相続税を減らす控除額の引き継ぎのルールまでわかりやすく解説します。

保有資格:R7司法書士試験合格者(2026年中に司法書士事務所を開業予定)、行政書士、ファイナンシャルプランナー(2級・AFP未登録)
取扱予定業務:遺産承継(預貯金、相続登記など)・生前対策(遺言、任意後見、信託など)・民事裁判・離婚
相続税の障害者控除とは?
相続税の障害者控除とは、相続人に障害がある場合、年齢に応じて相続税額から直接一定額を差し引ける(税額控除)制度です。障害のある方の将来の生活費や医療費等の負担を軽減する目的で設けられています。
相続税には、障害者控除のほかにも、以下のとおり、いくつかの「税額控除」が設けられています。これらに共通していることは、算出された各相続人の相続税額から一定額を「直接」差し引くことができるという点です。この点、正味の遺産額から差し引く「基礎控除」と大きく異なります。
- 配偶者の税額軽減(配偶者控除):配偶者が取得した財産が、法定相続分または1億6,000万円のいずれか多い金額までであれば、相続税がかからない制度です。
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- 未成年者控除:相続人が18歳未満の場合、「(18歳 - 相続時の年齢)× 10万円」を相続税額から差し引くことができます。年齢によって控除額が変わる点など、障害者控除とよく似ています。
- 相次相続控除:今回の相続開始前10年以内に、亡くなった方自身が別の相続で相続税を納めていた場合、その一部を今回の相続税額から控除し、短期間での連続した課税負担を和らげる制度です。
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- 贈与税額控除:相続開始前の生前贈与で加算対象となった財産について、すでに納付した贈与税がある場合、二重課税を防ぐために相続税額から差し引かれます。
- 外国税額控除:海外にある財産を相続し、現地の外国政府へ相続税に相当する税金を納めた場合に、日本の相続税額から一定額を差し引く制度です。
障害者控除を適用して相続税が0円になる場合は「申告不要」
障害者控除を適用できた結果、相続税が0円になる場合は、税務署への相続税の申告は必要ありません。正味の遺産額が基礎控除額を超えない場合に相続税の申告が不要な場合に似ています。障害者控除のほか未成年者控除の場合も同じです。
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申告不要な理由
障害者控除で申告が不要なのは、障害者控除の適用要件である「相続人が障害者であること」や「障害者の年齢」は公的な書類のみで証明でき、税務署による厳格な審査や確認が必要ではないからです。計算も一律で個別の判断を要しないため、税金を差し引いた結果、納税額が0円となれば、申告は不要とされています。
一方、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例では、「誰がどの財産を相続したか(遺産分割の確定)」や「同居などの適用要件を満たしているか」を、申告書や提出書類をもとに税務署が細かくチェックする必要があります。そのため、納税額が0円になっても申告が義務付けられいます。
【例外】申告が必要になる場合
障害者控除を適用することができても、以下の場合は相続税の申告が必要になります。
- 配偶者控除や小規模宅地等の特例と「併用」して0円になった場合
障害者控除単体では税額が残り、配偶者控除などを併せて適用することで初めて0円になる場合は、申告が必要です。 - 控除の「引き継ぎ(扶養義務者への適用)」を行う場合
障害者本人の税額から引ききれなかった控除額を、他の相続人(扶養義務者)の税額から差し引く場合は、その計算を示すために相続税の申告を行う必要があります。
相続税の障害者控除を適用するための4つの要件
障害者控除を適用して相続税を減額するには、以下の4つの要件をすべて満たす必要があります。
- 要件1: 法定相続人であること
- 要件2: 相続開始時に日本国内に住所があること
- 要件3: 相続開始時に障害者であること
- 要件4: 財産を取得していること
1つでも要件を満たさないと障害者控除を受けることができません。ご自身のケースがすべての要件を満たしているか、各要件を順番に確認していきましょう。
【要件1】法定相続人であること
まず、障害者控除を受けられるのは、法律で定められた「法定相続人」(配偶者、子、親、兄弟姉妹など)に限られます。
これは、障害者控除が残された家族の将来の生活費や医療費等の負担を軽減することを目的とした制度だからです。なお、相続放棄した人は法律上は相続人ではありませんが、遺言によって財産を受け取ったり、死亡保険金や死亡退職金を受け取ったりすることがあります。この場合、その放棄した人が本来の法定相続人であれば、税務上は障害者控除の適用を受けることができます。
一方で、法定相続人以外の人が遺言によって財産を譲り受けたとしても障害者控除を適用することはできません。法定相続人以外の人はあくまで、被相続人からの恩恵として財産を受け取ったにすぎず、上記の目的を達するために障害者控除を適用する必要性は低いと考えられます。
- 対象になる人(法定相続人): 配偶者、子、代襲相続人となっている孫など
- 対象にならない人: 友人、息子の妻、遺言で財産をもらった孫(代襲相続ではない場合)など
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【要件2】相続開始時に日本国内に住所があること
次に、原則として、相続が発生した日(被相続人が亡くなった日)の時点で、財産を受け取る障害者本人が日本国内に住所を有していることが必要です。
これは、障害者控除が日本国内で生活する方の将来の生活基盤を保護する側面が強い制度だからです。そのため、生活拠点が海外にある人は、原則として障害者控除の対象から外れてしまいます。
ただし、海外に住んでいても一定の要件を満たす場合は、例外的に適用が認められます。具体的には、障害者本人が「日本国籍」を有しており、過去10年以内に本人または亡くなった被相続人のいずれかが日本国内に住んでいたことがある場合などです。
- 原則として対象になる人: 日本国内に生活の拠点(住所)がある人
- 例外的に対象になる人: (海外在住だが、)日本国籍があり、過去10年以内に日本での居住歴がある等
- 対象にならない人: 海外在住で日本国籍もない人
※海外にお住まいの相続人がいる場合は適用の判定が複雑になるため、要件を満たすかどうか慎重に確認する必要があります
【要件3】相続開始時に障害者であること
次に、相続が発生した日の時点で、障害者(一般障害者または特別障害者)に当てはまることが必要です。
障害者控除の対象となるかは、原則として「身体障害者手帳」「精神障害者保健福祉手帳」「療育手帳(愛護手帳など)」といった各種手帳の交付をすでに受けているかどうかで判断します。
「すでに交付申請中であった場合」や「相続開始日にその障害の状態にあり、亡くなった後に速やかに申請して手帳の交付を受けた場合」は、医師の診断書等で相続開始日当時の状態を証明することで適用が認められます。
- 特別障害者: 身体障害者手帳の1級・2級、精神障害者保健福祉手帳の1級など
- 一般障害者: 身体障害者手帳の3級〜6級、精神障害者保健福祉手帳の2級・3級など
※また、障害者手帳がなくても、「65歳以上で、要介護認定などを受けており、自治体から『障害者控除対象者認定書』の交付を受けている人」も障害者控除を適用できます。
【要件4】財産を取得していること
次に、障害者本人が相続や遺贈によって実際に財産を取得していることが必要です。
障害者控除は障害者本人の相続税額から控除額を差し引くという仕組みです。そのため、遺産分割の結果、障害者本人が遺産を引き継がなかった場合は、障害者控除の適用要件から外れてしまいます。
ここで特に注意すべきなのが、「控除の引き継ぎ(扶養義務者への適用)」を検討しているケースです。 家族全体の相続税負担を減らすために、余った控除枠を親や兄弟などの扶養義務者に引き継ぎたい場合でも、障害者本人が財産を一切相続していなければ控除枠そのものが発生せず、他の人への引き継ぎを行うこともできなくなります。
そのため、実務上は「障害者本人も少額(一部の預貯金など)でよいので、何らかの財産を実際に引き継ぐ」ように遺産分割を行うことが、家族全体の相続税を抑えるための重要なポイントとなります。
障害者控除額の計算方法と早見表
障害者控除の適用によって相続税から直接差し引ける金額は、相続が発生した日における障害者本人の「年齢」と「障害の程度(一般か特別か)」によって計算されます。控除枠は、満85歳に達するまでの年数に応じて決まる仕組みです。
障害者控除の計算式
- 一般障害者の場合: (85歳 - 相続開始時の年齢) × 10万円
- 特別障害者の場合: (85歳 - 相続開始時の年齢) × 20万円
なお、年齢の「1年未満の端数」は切り捨てます。四捨五入して切り上げてしまわないよう注意が必要です。たとえば、相続開始時の年齢が「50歳9ヶ月」だった場合、9ヶ月の部分は切り捨てられ、「50歳」として計算します。
- (85歳 - 50歳)= 35年
- 一般障害者なら:35年 × 10万円 = 350万円の控除
- 特別障害者なら:35年 × 20万円 = 700万円の控除
端数を切り捨てることで年数が1年分多くカウントされるため、納税者にとって有利となる計算のルールとなっています。
障害者控除額の早見表
ここでは控除額を一目で把握できるよう、年齢ごとの控除額を表にまとめました。
| 相続開始時の年齢(端数切捨て) | 一般障害者の控除額(×10万円) | 特別障害者の控除額(×20万円) |
| 0歳 | 850万円 | 1,700万円 |
| 10歳 | 750万円 | 1,500万円 |
| 20歳 | 650万円 | 1,300万円 |
| 30歳 | 550万円 | 1,100万円 |
| 40歳 | 450万円 | 900万円 |
| 50歳 | 350万円 | 700万円 |
| 60歳 | 250万円 | 500万円 |
| 70歳 | 150万円 | 300万円 |
| 80歳 | 50万円 | 100万円 |
| 84歳 | 10万円 | 20万円 |
| 85歳以上 | 0円(適用なし) | 0円(適用なし) |
💡過去の相続ですでに障害者控除を受けている場合の注意点
もし、今回の相続の前に別の相続(例:過去に父親が亡くなった際の一次相続)があり、その時にすでに障害者控除を適用していたという場合は注意が必要です。
障害者控除は「85歳までの生涯控除枠を使い切る」という性質があるため、過去の相続ですでに控除枠を使い切っている場合や、今回の計算で算出された金額よりも過去の相続で控除した金額の方が多い場合は、今回の相続では控除を受けられない(または控除額が少なくなる)ことがあります。このような連続して相続が発生しているケースでは計算が複雑になるため、一度税理士へ確認することをおすすめします。
控除額が余る(引ききれない)場合は他の相続人から控除可能
障害者控除の額が大きいために、障害者本人の相続税額だけでは控除しきれず「控除額が余ってしまう」というケースがあります。この場合、余った控除額をそのままにしておく必要はありません。障害者控除には、余った控除額を他の相続人(扶養義務者)の相続税から差し引くことができる「控除の引き継ぎ(順次控除)」というルールがあります。この制度を活用することで、障害者本人だけでなく、家族全体で納める相続税を大幅に減らす(あるいはゼロにする)ことができます。
【1】控除を引き継げる「扶養義務者」の範囲
余った控除額を使うことができるのは、障害者本人と「扶養義務者」の関係にあり、かつ、今回の相続や遺贈によって財産を取得した人に限られます。に限られます。扶養義務者とは以下のような方を指します。
- 配偶者
- 直系血族(父母、祖父母、子供、孫など)
- 兄弟姉妹
- 三親等内の親族で生計を一にしている人(おじ・おば、甥・姪などで同居や生計支援がある場合)
たとえば、亡くなった父親の相続で、障害を持っている「長男」の控除額が余った場合、その額は「母親(妻)」や「次男(兄弟)」の相続税額から差し引くことができます。一方、いとこや叔父・叔母(生計を別にする場合)など、扶養義務者にあたらない親族へ控除額を引き継ぐことはできません。
【2】余った控除額の分け方
扶養義務者が複数人いる場合、余った控除額を「誰の税額から」「いくら差し引くか」は、相続税を負担することになる人同士の話し合いによって自由に決めることができます。必ずしも法定相続分で分ける必要や均等に割る必要はありません。
たとえば、次のような柔軟な調整が可能です。
- 税額が最も高い相続人に控除枠を優先して割り当て、その人の税額をゼロにする
- 複数の相続人で少しずつ控除枠を分け合い、それぞれの税額をまんべんなく減らす
どのパターンが最も節税になるかを試算し、自由に割り振りを選択できる点が大きなメリットです。
【3】具体的例でみる控除額の引き継ぎイメージ
それでは、以下の設例で控除額がどのように引き継がれるのか具体的にみてみましょう。
- 障害者本人(50歳・特別障害者): 控除額 700万円
- 障害者本人の相続税額: 200万円
- 母親の相続税額: 300万円
- 弟の相続税額: 300万円
①障害者本人の税額から差し引く
まず、障害者本人の控除額700万円から本人の税額200万円を引きます。 本人の税額は0円になり、控除枠が500万円分余ります。
②余った500万円を家族で分ける
次に、余った500万円を、母親と弟の税額から引き継いで差し引きます。
- 母親: 税額300万円 - 控除引き継ぎ300万円 = 税額0円
- 弟: 税額300万円 - 控除引き継ぎ200万円(残枠) = 税額100万円
結果として、家族全体で本来800万円あった相続税額が、わずか100万円まで削減されました。
【4】控除額を引き継ぐ際の2つの重要な注意点
このように家族全体の節税に大きく貢献する控除額の引き継ぎですが、実行するにあたって必ず押さえておくべき注意点が2つあります。
【注意点①】障害者本人が財産を取得していないと引き継ぎはできない
【要件4】でも解説した通り、障害者本人が今回の相続で財産を1円も取得していない場合、障害者控除を適用できません。障害者本人に障害者控除を適用できない以上、他の相続人へ控除額を引き継ぐこともできません。
- 「障害のある弟には財産の管理が難しいから、遺産はすべて健常な母親や兄に相続させよう」
- 「でも、障害者(弟)が持っている『控除枠』を使わないのはもったいない。弟には相続させないけど、余った控除枠だけは健常な母や兄に引き継いで、相続税をゼロにしよう」
などといったことはできないため注意が必要です。
【注意点②】引き継ぎを行う場合は「相続税の申告」が必要になる
冒頭で「障害者控除の適用で税額が0円になれば申告不要」と解説しましたが、他人の控除枠を引き継ぐ場合は例外となります。
控除額の引き継ぎを行う場合、「誰の控除額を誰にいくら割り振ったか」を明確にするため、申告書(第13表「障害者控除額の計算書」など)を作成して税務署へ提出しなければなりません。 たとえ控除額を引き継いだ結果、家族全員の納税額が0円になったとしても、税務署へ計算根拠を示す申告手続きが必要になります。「申告しないまま勝手に控除額を分ける」ということはできません。必ず申告期限内(10ヶ月以内)に申告を行いましょう。

保有資格:R7司法書士試験合格者(2026年中に司法書士事務所を開業予定)、行政書士、ファイナンシャルプランナー(2級・AFP未登録)
取扱予定業務:遺産承継(預貯金、相続登記など)・生前対策(遺言、任意後見、信託など)・民事裁判・離婚


