相続分の放棄 | 相続放棄との違いは?

遺産分割のトラブルから抜け出したい場合や、そもそも故人(被相続人)の相続財産に関心がない場合、「相続分の放棄」という選択肢があります。
しかし、言葉が似ている「相続放棄」と混同して手続きをしてしまうと、後になって被相続人の借金を背負うことになりかねないため注意が必要です。
この記事では、相続分の放棄の正しい意味や、「相続放棄」「相続分の譲渡」との違い、メリット・デメリット、相続分の放棄のやり方、気になる税金についてわかりやすく解説します。

保有資格:R7司法書士試験合格者(2026年中に司法書士事務所を開業予定)、行政書士、ファイナンシャルプランナー(2級・AFP未登録)
取扱予定業務:遺産承継(預貯金、相続登記など)・生前対策(遺言、任意後見、信託など)・民事裁判・離婚
相続分の放棄とは?
相続分の放棄とは、遺産全体(相続財産)に対する相続人の取り分(相続分)をいらないと放棄する意思表示のことです。
相続分は遺言によって決められることもありますが、遺言がない場合は法律が定める相続分(法定相続分)に従います。たとえば、【(設例)夫・妻・子ども2人(長男・次男)の4人家族で、夫が亡くなった】ときの法定相続分は妻1/2、長男1/4、次男1/4です。
相続分の放棄とはこの「1/2」、「1/4」という相続分を放棄することであって、「○○の財産(不動産、借金など)を放棄する」などというような個々の財産を放棄することではないことに注意が必要です。
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放棄の期限
法律上の決まりはありませんが、遺産分割の話がまとまる前に行うことが必要です。遺産分割の話がまとまった後は、相続人の個々の財産に対する権利が確定し、相続分という概念自体がなくなってしまうためです。
Q:遺産分割調停中でも相続分の放棄はできますか?
A. はい、可能です。調停中ということは、遺産分割の話がまとまる前といえるためです。調停中に相続分の放棄をしたいときは「相続分放棄書」を作成して家庭裁判所に提出します。
放棄の効果
相続分を放棄すると相続人としての地位を失います。そのため、遺産分割協議に参加する必要がなくなります。放棄された相続分は他の相続人の相続分に自動的に上乗せされます。相続人が複数いる場合は、各相続人の法定相続分に応じて割り当てられます。
💡具体例で確認
たとえば、設例のケースで、次男が相続分を放棄したとします。この場合、次男の相続分1/4は、他の相続人である妻と長男に割り当てられます。そして、妻と子1人の場合は相続分は等しく(1/2ずつ)割り当てられますから、次男の相続分の放棄によって、
・妻 :1/8(=1/4×1/2)
・長男:1/8(=1/4×1/2)
の相続分を取得し、トータルの相続分は、
・妻 :5/8(=4/8+1/8)
・長男:3/8(=2/8+1/8)
となります。
相続分の放棄と相続放棄・相続分の譲渡との違い
相続分の放棄と似た制度として「相続放棄」・「相続分の譲渡」があります。いずれも、それをすることによって「相続人としての地位を失う」という点では共通しています(その結果、遺産分割協議に参加する必要がなくなります)。しかし、相続分の放棄と相続放棄、相続分の放棄と相続分の譲渡では以下で解説する違いがあります。
相続分の放棄と相続放棄の違い
相続分の放棄と相続放棄の違いは、
- 借金(債務)を引き継ぐかどうか
- 手続き・期限
- 放棄した相続分の行方
にあります。
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【違い1】借金(債務)を引き継ぐかどうか
相続分の放棄は、被相続人の死亡と同時に、プラスの財産、マイナスの財産をいったん引き継いだ後、プラスの財産のみを手放すというものです。したがって、相続分の放棄をしたとしても借金を免れることはできません。一方、相続放棄は被相続人の死亡時点ですでに相続人ではなかったとするものです。したがって、プラスの財産のみならず、借金も免れることになります。
【違い2】手続き・期限
前述したとおり、相続分の放棄は遺産分割協議が成立するまで行うことができます。また、後で解説するとおり、手続きとしては「相続分を放棄する」という意思表示をすれば足り、家庭裁判所への手続きは必要ありません。一方、相続放棄をするには、原則として、被相続人の死亡及び事故が相続人であることを知ったときから3か月以内に、家庭裁判所へ申述の手続きが必要です。
【違い3】放棄した相続分の行方
これも前述したとおり、相続分を放棄すると、放棄した相続分が他の相続人の相続分に上乗せされます。相続人が複数いる場合は、各相続人の法定相続分に応じて割り当てられます。一方、相続放棄した場合は、相続分ではなく相続権自体が次順位の相続人に移ります。被相続人に借金があった場合は、借金も次順位の相続人に移ります。
【相続分の放棄と相続放棄の違い】
| 項目 | 相続分の譲渡 | 相続放棄 |
| 借金(債務)を引き継ぐか | 引き継ぐ(免れない) | 引き継がない(免れる) |
| 手続き | 不要 | 必要 |
| 期限 | 期限なし(遺産分割成立前まで) | 相続開始を知ってから3か月以内 |
| 放棄した相続分の行方 | 他の相続人に法定相続分に応じて相続分が割り当てられる | 相続権が次順位の相続人へ移る |
相続分の放棄と相続分の譲渡の違い
相続分の放棄と相続分の譲渡の違いは
- 相続分を渡す相手を指定できるか
- 手放した相続分の行方
- 手続き
にあります。
相続分を渡す相手を指定できるか
相続分を放棄する場合は相手を指定できません。一方、相続分の譲渡は、譲渡人の意思で特定の人を指定できます。
手放した相続分の行方
相続分を放棄した場合は、他の相続人全員に相続分が割り当てられます。一方、相続分を譲渡する場合は譲渡人が指定した人にのみ相続分が譲渡されます。
手続き
相続分の放棄は「相続分を放棄します」という意思表示をすれば足ります。一方、相続分の譲渡の場合は譲渡人と譲受人の話し合いが必要です。相続人一人で完結できるのが放棄、譲受人がいてはじめて成立するのが譲渡です。
【相続分の放棄と相続分の譲渡の違い】
| 項目 | 相続分の放棄 | 相続分の譲渡 |
| 相続分を渡す相手の指定の可否 | 指定できない | 指定できる |
| 手放した相続分の行方 | 他の相続人全員へ割り当て | 指定した特定の相手へ移転 |
| 手続き・方法 | 自分一人の意思表示で完結 | 双方の合意(契約)が必要 |
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相続分の放棄のメリット
相続分の放棄のメリットは以下のとおりです。
【1】遺産分割のトラブルから抜け出すことができる
相続分を放棄する最大のメリットは、遺産分割のトラブルから抜け出すことができることです。相続分を放棄してしまえば、以後は遺産分割の話し合いに参加する必要がなくなります。被相続人や他の相続人との関係が希薄で関わりを避けたい場合、そもそも相続財産に関心がない場合などは選択肢の一つといえます。
【2】家庭裁判所への手続きが不要
相続分の放棄をする場合は家庭裁判所への手続きが不要です。相続放棄をする場合は、家庭裁判所に対して申述(申出)の手続きをとる必要があり、手間や時間がかかります。
【3】法的な期限は設けられていない
また、相続放棄と異なり、期限についても設けられていません。相続放棄に設けられている熟慮期間(3か月)を過ぎても、遺産分割の話がまとまる前であれば相続分を放棄することができます。
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相続分の放棄のデメリット
次に、相続分の放棄のデメリットは以下のとおりです。
【1】借金を免れることはできない
まず、被相続人に借金(債務)があった場合、相続分の放棄をしても借金を免れることはできないことです。借金を免れるには相続放棄をする必要があります。
【2】特定の人に相続分を譲渡できない
次に、特定の人に相続分を譲渡することができないことです。相続分の放棄をすると、疎遠な相続人の相続分を増やしてしまう可能性があります。特定の人の相続分を増やしたい場合は相続分の譲渡をする必要があります。
【見本あり】相続分の放棄の方法
相続分の放棄は口頭で行うこともできますが、それでは自分以外の人に対して相続分の放棄を行ったことを証明することはできません。そのため、通常は書面を作成して行います。もっとも、相続分の譲渡と異なり、ご自分一人で完結するため、手続きとしては簡単です。
【手順1】「相続分放棄証書」を作成する
相続分放棄証書
被相続人の氏名:〇〇 〇〇
最後の住所:〇〇県〇〇市……
最後の本籍:〇〇県〇〇市……
生年月日:昭和〇年〇月〇日
死亡日:令和〇年〇月〇日
私(放棄者)は、上記被相続人の相続につき、その保有する相続分の全部を放棄いたします。
令和〇年〇月〇日
住所:〇〇県〇〇市……
氏名:放棄 太郎 ㊞(実印)
まず、上記のような書面を作ります。
【手順2】実印で押印し、印鑑登録証明書を用意する
相続分放棄証書の署名は自署で、印鑑は必ず実印で押印をします。また、印鑑登録証明書を取得しておきます。
【手順3】他の相続人(または手続きの代表者)に提出する
実印を押した「相続分放棄証書」と「印鑑登録証明書」を、遺産分割をまとめている他の相続人や、手続きを代行している専門家(司法書士や弁護士など)に渡します。これで、あなた自身の手続きは完了となり、遺産分割の話し合いから離脱することができます。その後、他の相続人たちは、あなたが提出した書類を使って銀行の解約や不動産の名義変更(相続登記)などの手続きを進めることになります。
相続分の放棄と税務上の注意点
相続分の放棄をした場合、税金はかかるのでしょうか?かかるとして何の税金がかかるのでしょうか?
まず、結論から言うと、遺産分割協議の成立前に相続分の放棄を行った場合、贈与税はかかりません。相続分の放棄による他の相続人の相続分の取得は、放棄した相続人からの贈与ではなく、あくまで被相続人から引き継いだものと考えられるからです。そのため、遺産総額が基礎控除額を超える場合は相続税がかかる可能性はあります。
また、相続税には「基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)」がありますが、相続分の放棄をした人は相続人としての地位を最初から失うわけではないため、計算式の「法定相続人の数」に含まれます。そのため、放棄によって相続税の非課税枠(基礎控除額)が減ってしまう心配はありません。
ただし、ここで注意すべきなのは相続分の放棄のタイミングです。遺産分割の話がまとまった後に、自分の取り分を他の相続人へ無償で譲ってしまうと個人間の贈与とみなされ、受け取った側に高額な贈与税が課税される恐れがあります。
思わぬ税金トラブルを防ぐためにも、相続分の放棄は必ず遺産分割の話がまとまる前に行うことが大切です。

保有資格:R7司法書士試験合格者(2026年中に司法書士事務所を開業予定)、行政書士、ファイナンシャルプランナー(2級・AFP未登録)
取扱予定業務:遺産承継(預貯金、相続登記など)・生前対策(遺言、任意後見、信託など)・民事裁判・離婚

