遺贈放棄の手続きと期限まとめ!放置して借金を背負わないための注意点

亡くなった方の遺言書によって財産を無償で引き継ぐ「遺贈」。実は様々な理由から、遺贈を放棄したいと考える方も少なくありません。

ただ、遺贈を放棄する際に最も気をつけなければならないのが遺贈の方法です。同じ遺贈でも、どのような方法による遺贈なのかによって、遺贈の方法や注意点が異なります。

本記事では、遺贈の方法ごとに、遺贈の放棄の方法や注意点についてわかりやすく解説します。また、遺贈の放棄と混同されがちな相続放棄との違いや、遺贈の放棄をする前に絶対に知っておくべき注意点もあわせてお伝えします。

遺贈や遺贈の放棄で後悔しないためにも、ご自身の状況と照らし合わせて正しい対処法をチェックしていきましょう。

遺贈の放棄とは?まずは基礎知識を解説

遺贈とは、亡くなった遺言者(被相続人)が遺言書によって、指定した人に財産を無償(タダ)で譲ることを指します。遺言によって財産を受け取る人を「受遺者」といいます。タダで財産をもらえると聞くと良いことのように思えますが、必ずしもそのようなケースばかりとは限りません。たとえば、次のようなケースではどうでしょうか?

  • プラスの財産よりも、借金などのマイナスの財産が多い
  • 管理や処分が難しい田舎の土地や、老朽化した空き家を遺贈された
  • 相続人との遺産トラブルに巻き込まれたくない

いずれも受遺者にとって不利益となりうるケースです。受遺者としてみれば、「財産を引き継ぎます」とはっきり意思表示したわけでもないのに、勝手に財産を引き継がされても困ります。そのため、受遺者は「財産を引き継ぎたくありません」と意思表示する権利が認められています。これが遺贈の放棄です。

遺贈には「包括遺贈」と「特定遺贈」の2種類がある

遺贈の放棄を検討する際、まず確認しなければならないのが、ご自身が「包括遺贈」と「特定遺贈」のどちらの方法で財産を遺贈されたかです。

  • 包括遺贈:「全財産の〇分の〇を遺贈する」といったように、割合を指定して譲る方法です。不動産や預貯金などの「プラスの財産」だけでなく、借金や未払いの税金などの「マイナスの財産」も、指定された割合に応じて引き継ぎます。
  • 特定遺贈:「〇〇に土地を遺贈する」といったように、特定の財産をピンポイントで指定して譲る方法です。指定された財産だけを受け取るため、遺言書に借金の記載がなければ、原則としてマイナスの財産を背負うことはありません。

このように、包括遺贈と特定遺贈では財産の引き継ぎ方全く異なります。その違いにともなって、遺贈の放棄の手続きも全く異なります。ご自身がどちらの方法で遺贈を受けたのかがわかったら、次の項目でそれぞれの手続きなどを確認していきましょう。

遺贈の放棄の手続きと期限

遺贈を放棄するための具体的な手続きや期限は包括遺贈か特定遺贈かによって大きく異なります。ここでは、それぞれのケースに分けて、どこでどのような手続きをすればよいのか、いつまでに完了させるべきかを詳しく解説します。ご自身の状況に合わせて確認してください。

【1】包括遺贈の放棄をする場合

包括遺贈の放棄をするには、相続人と同じく包括遺贈の放棄の手続きをとる必要があります。

  • 放棄の期限: 自己のために包括遺贈があったことを知った時から3ヶ月以内
  • 手 続 き 先: 亡くなった方の最後の住所地を管轄する「家庭裁判所」
  • 手続き方法: 家庭裁判所に対して「包括遺贈の放棄の申述」の申し立てを行う

包括遺贈の場合は、他の相続人などに「財産はいりません」と口頭や手紙で伝えるだけでは遺贈を放棄したことにはなりません。必ず家庭裁判所に対して「包括遺贈の放棄します」という意思表示(申述)をする必要があります。

また、最も注意すべきなのが「3ヶ月」という短い期限です。この期限を過ぎてしまうと、原則として遺贈を承認したものとみなされ、借金も含めたすべての財産を引き継がなければならなくなります。包括遺贈の放棄をするには戸籍などの書類が必要ですが、書類ある集めにも時間がかかるため、早急な対応が求められます。

【2】特定遺贈の放棄をする場合

一方、特定遺贈の放棄の場合は、包括遺贈のような厳格なルールは定められていません。

  • 放棄の期限: 原則としていつでも可能(期限なし)
  • 手続き先 : 遺贈義務者(相続人や遺言執行者など)
  • 手続き方法: 相続人または遺言執行者に対して、放棄する旨の意思表示を行う

特定遺贈の場合、期限は設けられていません。しかし、いつまでも決断しないでいると、相続人や遺言執行者から「〇日以内に承認するか放棄するかについて返答してください」と催告(通知)を受ける可能性があります。もしこの指定期間内に返答しなかった場合は、「遺贈を承認した」とみなされ、後から放棄できなくなる点には注意が必要です。

また、特定遺贈の放棄の手続き方法にもルールはありませんが(口頭でも可能)、口頭で終わらせると後になって「言った・言わない」のトラブルになる可能性が非常に高いです。そのため、実務上は「配達証明付きの内容証明郵便」などを利用し、放棄したことを証明する証拠を残しておくことが鉄則です。

「遺贈の放棄だけ」or「相続放棄だけ」はできる?

「遺贈の放棄」によく似た言葉として「相続放棄」があります。しかし、両者は全く別の制度です。遺贈の放棄は、遺言書で指定された財産に限って、引き継ぎを拒否する行為です。一方、相続放棄は相続人という地位そのものを放棄する行為です。相続人以外の人(第三者)が受遺者の場合は、その人も遺贈の放棄ができます。一方、相続放棄は相続人だけに認められた手続きであるという違いがあります。

【1】問題の所在

このように、相続人が遺贈を受けた場合、相続人は遺贈の放棄も相続放棄も選択できます。そこで、相続人は、

  • 遺贈の放棄はしつつ、相続放棄はしない(相続は承認)という選択(選択①)、
  • 相続放棄はするが、遺贈の放棄はしないという選択(選択②)

をできるのかが問題となります。

【1】特定遺贈の場合

この点、特定遺贈であれば、選択①も選択②もどちらもできます。 特定遺贈と相続放棄は、法律上まったく別の独立した権利として扱われるためです。

したがって、「遺言で指定された土地はいらない(特定遺贈の放棄)が、その他の預貯金などは相続する」という選択①も、「親の借金は引き継ぎたくない(相続放棄)が、遺言で指定された特定の財産だけはもらう」という選択②も、それぞれの判断で自由に行うことができます。

【2】包括遺贈の場合

一方、包括遺贈であっても、選択①・選択②のどちらも可能です。なぜなら、包括受遺者としての地位と相続人としての地位は法律上別個のものとして扱われるためです。

ただし、最も注意しなければならないのは、借金などのマイナスの財産も含めてすべての財産・地位を完全に手放したい場合です。

相続人が包括受遺者になっている場合、単に「相続放棄」をしただけでは包括受遺者としての地位(および債務)が残り、逆に「包括遺贈の放棄」をしただけでは相続人としての地位(および債務)が残ってしまいます。

そのため、完全に手放したい場合は、家庭裁判所に対して「相続放棄」と「包括遺贈の放棄」の両方の手続きをセットで行う必要があります。

遺贈を放棄する際におさえておくべき3つの注意点

遺贈の放棄は、不要な財産や相続トラブルを回避するための有効な手段ですが、判断を誤ると取り返しのつかない事態を招くリスクがあります。後悔や思わぬ借金を防ぐため、手続きを実行する前に必ず確認しておくべき3つの重要な注意点を解説します。

【1】一度放棄の手続きをすると原則として撤回できない

まず、一度手続きをしてしまうと、原則として撤回ができないという点です。

遺贈の放棄は、特定遺贈であっても包括遺贈であっても、一度有効に成立すると「(一度放棄したけど)やっぱり財産をもらいたい」と後から放棄の意思表示を撤回することはできません。そのため、安易に決断するのではなく、本当に遺贈の放棄しても後悔しないか、マイナスの財産よりプラスの財産の方が多くないかなどを事前にしっかりと調査・検討することが重要です。

【2】包括遺贈にはマイナスの財産も含まれる

この点については、これまで繰り返し述べてきました。包括受遺者は相続人と同じ地位を引き継ぐからです。もし、遺言者に多額のマイナスの財産があって放棄したいという場合は、「自己のために包括遺贈があったことを知ってから3ヶ月以内」に包括遺贈の放棄の手続き(受遺者が相続人の場合は、あわせて相続放棄の手続き)をとる必要があります。

【3】放棄した財産は誰のものになる?

次に、遺贈を放棄した財産は誰のものになるのかという点です。

受遺者が遺贈を放棄した場合、その放棄された財産は原則として相続人の元に戻ります(相続人の共有財産となります)。ただし、遺言書に「もし受遺者が遺贈を放棄した場合は、代わりに〇〇に譲る」という記載(補充遺贈・予備的遺言)がある場合は、その遺言書の指定が優先されます。遺贈を放棄した後のトラブルを避けるためにも、遺言書の内容は最後までよく確認しておく必要があります。